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□憶えろ
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何故オマエはオレの名前を忘れる?











聞いてもきっと「どちらさまでしたっけ・・・」と返ってくる。

共に競い合った同志であり、同じ小訓練所に通っていた間柄なのに。

何故だ。

何故忘れる?

オマエにとってオレはその程度・・・ということなのか?







「暗殺兵術・・・!零次元斬!」

とてつもない威力の技のはずなのに、オマエはビクともしない。

あまつさえ、小さく笑っていたのだ。

「異地激!!」

「グ・・・・・・・・・っ、う」

チッ・・・遅れた。

「ゼロロの勝利だな」

上官のジララが言う。

「ゼロロ二等兵!まだまだ暗殺兵術として甘いぞ」

「はい。自分でもそう思いました。今日は調子がどうもよくなくて・・・」

・・・・・・オレを惨めにさせる会話だな。

要は不調でもゼロロならオレを倒せるということだ。

「精進せよ」

「はい」

完全に蚊帳の外。







オレの空で2人は言葉を交わしている。

強くなりたい。

切に願った。







だがここは実力がものを言う世界。

願望は自ら叶えに行かなければならない。







「ゼロロ・・・手合せしろ・・・・・・」

オレの名を刻みたい。

オマエの中に一生留めてほしい。

決して、他の雑魚なんかと同じにしてほしくない。

こんな執着心は、ゼロロにしか抱いたことがなかった。







「いいよ」

ゼロロは言葉と共に消えた。

どんな相手であろうが容赦しない。

それがゼロロの強さであり優しさであると、何時だかジララが言っていた。

『強さ』の方はまだいい。

だが『優しさ』については理解できない。

これのどこが優しさなのか。

「後ろに隙をつくりすぎだよ」

・・・・・・背後をとられた!すぐに振り返ったがゼロロは既にそこにはいなかった。

「次はこっちががら空きになってる」

くっ・・・・・・。

まるで遊ばれているようだ。










どうしたらそんなに強くなれる?

どうしたらそんなに速くなれる?

どうしたら・・・。

どうしたらオマエはオレの名を覚えてくれる?










「暗殺兵術・・・・・・っ」

オレはゼロロによって宙へと放り出されていた。







オマエに憶えてもらいたい。

オマエはX1に来てから、ジララ以外の者の名を呼んだことがないだろう。

ジララよりも強くなればいいのか?

答えは分からない、が。

今のオレには到底無理ということくらいは分かる。







誰が見たって、暗殺部隊の実力NO1はゼロロだった。







「大丈夫?」

「・・・・・・・・・」

自分が倒した相手に情けを掛けに来たようだ。

「何故だ」

言葉が自然と口から漏れた。

「え?」

まあいい。

こんな機会に言わなければ何時伝えればいいのか分からないことだ。

「何故本気で向かってくる?余力を余したってオレくらいオマエになら倒せるはずだろう」

ゼロロは黙った。

そして。

それから少しして、呟いた。







「確実に倒したいからだよ」

告げてゼロロは立ち去った。

多分嘘だろう。

読心鬼属を使おうとしたが、奴の精神は矛の境地と化していた。

何を隠す必要がある。

暗殺兵術の心得がある者になら、即座にばれるような嘘までついて。

昔から、近くにいるのに遠い存在。

それがゼロロだった。







ある日、寮に入ると一室からアイツの声がした。

耳を澄ませてみると、何を言っているのか聞き取ることが出来た。



「ケロロくん・・・ギロロくん・・・・・・・・・」

それは、小訓練所時代からゼロロがよく叫んでいた名前だった。



・・・ジララ以外も呼べるのか。

そう思うと、なぜか胸が痛んだ。

きっとゼロロはオレの名を覚えてなんかいない。

なのに。

ずっとずっと昔から。

ゼロロ、オマエは。



そいつらのことを忘れはしなかったんだろう。

そう思った、次の瞬間。







「もう・・・会いたくない・・・・・・」



ゼロロは何を言っている?

会いたくない・・・?

どういうことなのか・・・・・・。

この場でも読心鬼属は使えなかった。







・・・会いたくない・・・か。

まさか、な。

ゼロロに限って奴らと絶縁したいということもあるまい。

聞き間違い、などということは暗殺兵である以上、

いくらゼロロよりも能力値の低いオレでも有り得ない。

その場は『不可解』のまま、通り過ぎることにした。







翌朝。

いつも通り訓練が行われようとしていた。

オレはゼロロを見て思う。

・・・・・・・・・今日こそは奴を倒す。

毎日考えていること・・・と言ってしまえば虚しいが、常にその決意への熱は向上している。

アイツよりも強くなりたい。

X1に入ってから、そのことしか考えていないような気もしないではないな。

「ただ今から訓練を開始する!!」

見知れぬ上官が言った。

いや、多分こちらが覚えようとしていなかっただけだ。

きっとオレの目にはゼロロしか映っていない。

・・・そうやってモノを見れば気が付いたことがあった。










オレだってゼロロと同じだ。










どうでもいいものは視界に入れない。










「・・・ゼロロ、相手をしろ」










またオマエは笑う。










「いいよ」




















これが『常』なのだと諦めよう。









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