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□The story begins
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これはある昼下がりの出来事。
ちょっと古風で、「今時そんなの誰も付けねぇよ」とよく言われるほどレンズの厚い眼鏡を中指でくいっと押し上げる。
眼鏡が所定の位置に戻ったことによって、幾分か視界がよくなる。
にしても最近、眼鏡をかけていても視界がぼやけるようになってきてしまった、この眼鏡、そろそろ変え買い時だろうか?
そうして俺は気付きたくないことにまで気付いてしまったのだ。
「……はぁ…、」
それなりに豪華な椅子から立ち上がり、ゆっくりとした動作である人物へと近付く。
そして勢いよく手を振りかざして…、
バシンッ!
机に突っ伏して寝こけている彼の頭を思いっきり殴りつけた。
「―――ッいってぇええぇえッ!!!??何すんだこのクソヤ、ロ…ぅ……」
最後に向かうにつれ小さくなっていく言葉と、勢いよく顔を上げた彼の顔をみてにっこりと微笑むと、彼の顔はみるみる青く染まっていった。
「い、いいんちょ…あの…これは…その、」
「言い訳は後で聞く。それより新堂、書類はできたのか?あぁ、ぐーすかと寝こけていたぐらいだし、もちろんできているんだろうなぁ?」
もちろん、の部分を強調して言い、かつ更に笑顔を深めれば、ヒッと肩を震わせながら涙目になった新堂。
「…まだ、できてねー…。です。あは。」
ゴンッッ!!!
ちなみに前回は平手で頭をたたいたのだが、今回はグーで拳骨。
いつだったか誰かが「日野の拳骨は中指ちょっと出してるから他の奴の倍痛い」って言っていたのを覚えている。
ちなみに俺は痛いのを知っていてわざとこれを使っている。婆ちゃんの入れ知恵だ。
「いってえぇえぇえええッッ!!!!」
「バカだバカだとは思っていたが此処までとはな…、生徒会の奴らが来る前にさっさと仕上げろ。」
頭を両手で抱えて机に倒れ込む新堂は尚、恨めしげに俺を睨んでくる。
このままストライキするつもりじゃないだろうな、そんなふざけたことしないでくれよ?
ただでさえ委員がインフルエンザでほぼ全滅しているんだから(その分の仕事は八割俺が片づけている)。
…一釘さしておくか。
「あー…今日は元木が休みなそうだ。」
「は?…あぁ、いつも書類出しに来たり取りに来たりする奴っすか…」
「あぁ。彼もインフルエンザだそうだ。ついでに福沢も気分が優れないとかで早退したそうでな。」
「はぁ…?……ぇ」
「さて、風間と岩下、どっちが取りに来るか―――」
「マッハで終わらせます!!!」
「…そうしろ。」
ガバッと起き上がり、本当にものすごい早さで書類を完成させていく新堂を見てため息をつく。
あいつ…新堂誠、我等が風紀委員副委員長である。
風紀委員長は俺、日野貞夫だが、基本的には俺が書類やらの事務仕事。新堂が不良取り締まり…、暴動が起きたとき鉄拳制裁を下したりする役目だ。
バカって言うほどバカではないが、バカじゃないのかと聞かれれば返答に詰まる。何分自分から行動しようとしないのが難点で、いつも仕事をしない。
挙げ句仕事をさせようとすれば逃げる、だが今ばかりは新堂を逃がしてなるものかと気配だけで新堂を監視していたのだ、なんたって今は逃がしてやれるほど人手が足りていないからな。
俺とこいつ、あと二、三人の委員以外全滅なんだ、猫の手だって借りたいこの状況で逃がしてやるほど俺はバカな人間じゃない。使えるものは使う。
そして新堂の唯一の弱点。
それが生徒会会長。
要するに岩下明彦だ。