short stories

□隣にあなた
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まもなくエルザがボウガンでガーゴイルを撃ち落とし、ダークムルーが海から這い上がって来た。

ダークムルーの針の攻撃がかなり痛いが、マナミアのリカバーで回復し、ユーリスのプロミネンスで防御力を下げ、最後にはひっくり返したダークムルーの腹にエルザが剣を突き刺して倒した。



「扉があかない!」

押しても引いてもビクともしない格子の扉。
これ以上民衆が避難している地下通路に敵が近づかないようにするためのものなのだろうが、今の私たちにとっては邪魔でしかない。

「ユーリス!魔法で吹き飛ばしてくれ!」

「わかった」


すでに魔力を集中させていたユーリスの魔法が炸裂し、門ごと吹き飛ばした。

私はエルザたちより先に扉の残骸を踏み越えてタシャがいる桟橋へと走る。
後ろからエルザたちもやって来た。



桟橋付近で敵に囲まれた状態のタシャを見つけた。かなり不利な状況だ。
近くにいたルリ騎士はグルグ族と戦うどころか敵前逃亡しており、話にならない。

「タシャ!」

私の横まで来たエルザがタシャの元へと走っていく。


「遅い!加勢ならもっと早く来んか!」

「ここは俺たちに任せて一旦引け」

エルザの言葉はもっともだ。タシャは平気なふりをしているが、きっと怪我をしているはずだ。ずっと前線で役に立たないルリ騎士を引き連れて戦っていたのだからきっと疲労もかなり蓄積されているはずだ。その証拠に動きが鈍い。

だが、タシャは引かないということが私には手に取るようにわかった。


「覚えておけ、我が騎士道…
我が騎士道とは、引かぬことただ一つ!」




タシャとエルザを囲む敵の他に桟橋の向こうから此方をボウガンで狙うグルグ族が確認できた。
マナミアはすぐさまリカバーを唱え回復、防御体制を作り出し、ユーリスはそこから遠距離攻撃を仕掛けていく。

私も桟橋の向こうから此方を狙うグルグ族を倒しに向かった。



マナミアのリカバーがかかった状態で、ボウガンをうまくよけつつ自分の間合いまで敵に近づき、素早く切り伏せた。放たれたアローは剣で弾き2発目を打たせないようすぐさま切りつけ、ボウガンを真っ二つにする。

あっという間だった。



「大丈夫か?タシャ」

エルザの声に振り返って見れば、反対側の桟橋付近で敵を倒し終えたエルザが蹲るタシャの傍にしゃがみ込んでいた。
私はあんなタシャの姿を見るのは初めてだった。いつも飄々と軽やかに敵を斬り伏せていくタシャがあそこまで苦しめられているなんて。

「タシャ!」

私はタシャの元に走った。


エルザの後ろ、桟橋の下からグルグ族が這い上がって来たのが遠目から分かった。2人が危ない。
エルザがタシャを起こそうと腕を掴もうとした……そのとき。



「くっ……!」




「タシャ!」

潜んでいたグルグ族の兵士の剣が深々とタシャの足に刺さっていた。

エルザは素早くその敵を斬り伏せた。


「貴殿を見込んで…頼みがある…」

「しゃべるなタシャ!」

「向こうの路地の先に地下水路への入り口がある。そこに避難した市民がいる。そこも安全とは言い切れない…彼らを守ってくれ」

タシャが懐から鍵を取り出し、エルザに差し出した。


「だめだ!タシャの手当てが先だ!」

「大丈夫だ。これくらいでやられる私ではない。
だが、貴殿の足手まといになるわけにはいかんのだ。早く行け」


複雑な表情のエルザだったが、一旦目を伏せたあと覚悟を決めたようにタシャから鍵を受け取った。
2人の元にたどり着いた私は、タシャの傍にしゃがみ込んで怪我の様子を診た。

「ナマエ、貴殿もエルザと共に行け」

「そんなことできるわけないだろ!怪我してるタシャを放って行くなんて…!」

「ナマエ…」

エルザが私の方を見てタシャの言うようにしようと促そうとしているのが目の端に映ったが、それどころじゃない。



「エルザさん。行きましょう。
ここでナマエさんを連れて行くのは野暮ってものですわ」

いつの間にか近くまで来ていたマナミアがエルザに諭すように言った。

「エルザ〜早く行こうぜー
カナンとジャッカルも心配だしよ」

セイレンが私の方に向いて口角を上げた。


「わかった。行こう!
ナマエ、気をつけて」

「大丈夫、私は無傷だ」



エルザたちは水路の方へ向かっていった。




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