short stories

□隣にあなた
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「抜くぞ」

「あぁ…」


タシャの足に刺さった剣の柄を握り、力を込めて慎重に抜いた。

「っ…」

眉間に皺を寄せながらも何も言わないタシャは流石だ。
私は懐から手当て用の布を取り出してタシャの傷口を圧迫するように巻いていく。



「ナマエ」

「黙って」

「そうピリピリするな。今は大丈夫だ」

「早く私たちも水路に行かないと。ちゃんとした治療を受けなきゃいけないんだぞ?!」

それまで無言で布を巻いていた手を止めてタシャの顔を見た。
座るタシャの傍にしゃがみ込んでいるせいかいつもより顔が近い。
タシャの透き通る水晶のような瞳に私の不安そうな顔が写っているのが分かってしまうほどだった。


「無事で…よかった」

ぽつりと口をついて出てきた言葉に私は緊張の糸が切れたのか、ポロリと左目から涙があふれた。

「泣くな。まだ終わっておらんぞ」

「わ、わかってる!でも、本当によかった…!」


タシャは困ったような顔で私の頬を伝う涙を親指ですくい取った。

「ナマエ、おまえも無事でよかった」


私は溢れそうになる涙を堪えるために上を向いた。空はまだ暗く赤い。街が燃えている証拠だ。

「ごめん。戦争の最中に泣くなんて…」

「私の前でなら許してやらんこともない」

その言葉にタシャの顔を見返すと、優しげな笑みで此方を見るタシャと目が合ってしまった。
思わず恥ずかしくなって目を逸らす。


「ナマエ」

タシャが優しく私の名前を呼ぶ。
いつものようにきびきびとした威厳たっぷりの声音ではなく、初めて聞く声。

私はそんなタシャの声に、タシャの方を向くのを躊躇っていた。すると、タシャの手が私の後頭部に回ったかと思えば強い力でタシャの方に引き寄せられた。

額がタシャの甲冑の胸の部分に当たる。甲冑に触れている額は冷たいのに、顔は熱い。


「た、タシャ…!」

「ナマエ、おまえは私が必ず守る」

「な、そんな急に……私は!私はタシャにそこまで心配されるほど弱いか…?」


「弱くはない。

ただ、私がおまえを守りたい、そう思っているだけだ。好いている故な」




後頭部に回っていたタシャの手が緩み、私の頭をひと撫ですると離れていった。心の中でその手を名残惜しく思いながらも、私は今度こそ顔を上げ、タシャの顔を見た。


「タシャ、私は守ってもらわなければならないほど弱くない。だから…一緒に戦いたい!隣に立っていたい!」


タシャは少し困ったように眉を下げて笑った。

「それもよかろう」




隣にあなた


(騎士の誇りとあなたと共に)






fin.
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