ボーダーライン
□6.
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結局俺はセラフィナを見つけられなかった。
早く売りに行くためにもセラフィナは見つけないと行けないし、第一セラフィナが悪い奴らに何かされてでもしたら…
セラフィナは確かに俺より剣の腕はすごいが、それでも女の子なのだから、力では男に勝てない。
数で負けることだってありうる。
「セラフィナ…」
早く帰って来いよ。
「テナさん、ありがとうございました!」
「こちらこそ助かったよ。パンの仕込みまで手伝ってもらえるなんてね。
おっと、早く帰りな。お嬢ちゃんのお連れサンが待ってるんじゃないのかい?」
「そうなんですけど…帰りづらくて。勝手に逃げ出して来ちゃったし」
「大丈夫だよ。それより心配させてるかもしれないんだから、早く安心させてやりな」
テナさんの言葉にゆっくりと頷いて、私はパン屋さんを出た。
朝の日差しがまぶしい。
リンクは心配してくれていたのかな。
いっつも家族同然のように一緒にいた。
だから心配はしてくれてるかもしれないけど…
ふっとよぎったのは、レーナの顔。
あんなかわいい子が身近にいたら、誰だって好きになりそうだもの。
「もうこのことは考えないようにしようってきめたじゃない」
ぱしっと自分の頬を軽く挟んで、目を閉じた。
私がリンクの唯一の家族。
リンクは私の唯一の家族。
だったら、私はリンクの恋を応援するしかない。
そんなことばかり考えているうちに、私はリンクがいるであろう宿屋の前までやって来た。
ゆっくりと玄関のドアノブに手をかけて開けると、丁度宿屋のおじさんと鉢合わせした。
「おっねぇちゃん!あんたのお連れさんが心配してたぜ」
「すいません。ご心配をおかけしました」
「あぁ…あんたの連れなら上で寝てるよ。昨日は一晩中あんたのことを探してたみたいだからな。
疲れてんだろうよ」
「そうですか。ありがとうございます」
私はお礼を言ってから、階段を登った。
部屋の前まで来て、フッと息を吐く。
何て言えばいいんだろう。
心配掛けでごめん?
大丈夫?
おはよう?
ごめんなさい?
分からない。
でもこのまま入らないという訳にもいかず、私はそっとドアを開いて、中に入った。
静まり返った部屋。
リンクはというと、ベットの上でぐっすり眠っていた。
久しぶりにリンクの寝顔を見た。
昔はよく見たのに。
最近はリンクの方が朝早いし、どちらかの家に泊まったりすることもなくなった。
私もリンクも大きくなったってことなのかもしれない。
「リンク…ごめんね。心配かけて。
別に嫌いだからとか、いやになったとか、そんな理由じゃないから、ね。
私の勝手な都合なの…だから、気にしないでね」
寝ている人にこんなことを言っても、しょうがないんだけれど。
「馬鹿だなぁ…私は。最初から分かってたはずなのに」
一旦心を落ちつける。
なんだか泣きそうな気分だった。
「ん…」
リンクが動いた。
起きちゃったらしい。
ゆっくりと蒼い瞳を覗かせた。
「あれ…夢?」
えっ、寝起きのリンクってこんなに可愛かったっけ。
私は自分の記憶の糸をたぐり寄せることに必死で、リンクが起き上がったことに気づかなかった。
「セラフィナ…セラフィナ?!」
がばっとリンクがベットから立ち上がって、
抱きしめた。
「リ、リンク?!」
「良かった…良かった…本当に良かった」
何度も良かったと繰り返すリンクに、私はどうしようもなくただ黙っていた。
リンクは私からゆっくりと離れて、こう切り出した。
「何処行ってたんだ?」
いつもより少し低めのトーン。
怒っているらしい。
「えーっと…」
口ごもる私にリンクがはぁーっと息を吐いた。
「もう勝手に何処かに行くなよ。ほんと心配したんだからな」
「うん…ごめん」
「勝手に何処か行くなよ?絶対だからな?約束」
私とリンクは約束を交わす。
でも、この約束は後々破られてしまうことになる。
それを私たちはまだ知らない。
「でも、大丈夫!私リンクより強いし」
「強いって言っても、セラフィナは女の子だろ?!
力じゃ負ける。数でかかって来られたら危険だろ」
リンクの言葉に私は一瞬思考がストップする。
”女の子”
リンクに女の子扱いされたことってそうそうない。
いっつも一緒にやんちゃしてたり、剣の修行したりしてたから…
「セラフィナ?どうした?」
「…ううん、何でもない」
私は首を振った。
「”女の子”か…」
「?」
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