short stories

□selfish
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あぁ、ツナだ…
またあの人と一緒にいる…

視界の端に映ったのは楽しそうに笑うツナと、彼の愛人。
私の入る隙間なんてこれっぽっちもない。
…なのに、なんで?
なんでそんなこと私に頼むの?



「なまえ」
「何?いきなり呼び出したりして。
また…あれ?」
「そうなんだ。なまえ、頼んでいい?」

いつもそう。
私の好きなその優しそうな笑顔で…
そんな酷いことを頼んでくるなんて、ねぇ?
どういうつもり?

「いい、けど…
そろそろあの人連れて行ったりしないの?」
「あの人って誰?」
「……ツナの愛人よ。
いつも楽しそうにしてるじゃない。気があうんでしょ?
結婚とか婚約とか考えてないの?」
「なまえはそんなに俺に結婚してほしいわけ?」
「別に…別にツナにとって負担になるなら無理にとは言わないけど。
やっぱり早く結婚した方が…職業柄いいんじゃないのかなって思っただけだから」

ツナは目を伏せた。
何その反応。
ツナがどう思っているのか最近全く分からない。
正確には知ろうとしてない…かな。
私がね。

「じゃあ、明日。よろしくたのむよ」
「わかったわ」

二つ返事で自室に戻った。
そしてベットに倒れ込む。
つーっと頬を涙が伝う。
拭うこともせず、ひたすらじっとするだけ。
これ以上気づかないふりなんて出来ない。
だいぶ前から本当は気づいてるの。
でも、この気持ちに正直になってしまったら、今以上に苦しくなる。
叶わないことだと分かっているからこそ気づかないふりして来たっていうのに。
貴方はそんな私のことなんとも思ってないってことも分かってるはずなのに…




いつものように黒いドレスに身を包む。
前にツナから言われた言葉を思い出した。
「なまえさ、そのドレス似合ってるよ」
あんな言葉一つで私は…
髪を上げて頭の後ろで団子にする。
ダイヤモンドで飾られた髪飾りをつけ、お揃いのネックレスとピアスを付けた。
どれもこれもこのパーティーだけのために用意されたもの。
みんなただの”かざり”でしかない。
それは私も同じこと。
ツナにとっての”かざり”。
いい女よけ。

屋敷を出て黒塗りの高級車に乗り込む。
少し経ってツナが同じ車に乗り込んで来た。
もちろん、私の隣に。

「相変わらず早いよねなまえは」
「ボスを待たせるわけにはいかないでしょう?」
「ボスじゃない」
「ツナ」
「そう」
「ツナ、また私でいいの?」
「なんで?
あっ、またそのドレス?好きだよなーそれ。
確かになまえに似合ってるけど、たまには違うのも着てみてよ」
「これが一番好きなの」
「もっと綺麗な色のドレス着てみてよ。次期待してるから」

少し妖しげな笑みを浮かべるツナに心臓がはねた。
あぁ、だめだ。
こんなことで戸惑ってちゃ…



車は私たちを乗せて滑るように会場へと走った。
会場にはもうすでにかなりの人が到着している様子。
私たちの到着は少し遅めのようだった。
ボーイによって車のドアが開かれる。
先にツナが降り立ち、私も続いて降りようとしたとき、



「なまえ、お手をどうぞ」





手を差し出して待つツナの姿に、私は一瞬固まる。
あんな優しい笑顔で、
あんなこと言われたら、
どうしたらいいの?

しびれを切らしたツナが少し笑って、私の手をすっと取った。

「こういうときは素直に手を差し出す所だろ?」
「あ、ごめん」
「…いいよ。なんで謝るんだよ」

そう言いながら私の手の甲に優雅にキスを落とすツナ。
全ての動きがかっこよくて、さまになっていて…
私は顔が熱くなるのを感じた。
手の甲にキスなんて社交辞令、ただの挨拶でしかないのに…
ツナの行動ひとつひとつに一喜一憂している私が滑稽に思えて仕様がない。

ツナに手を引かれて会場に入れば、黄色い歓声が上がる。
みんなツナ目当てのご令嬢の歓声。
ツナはいつも令嬢は嫌だ、令嬢と婚約したくないと言うけれど、こんなに綺麗な人たちなら鼻も高いでしょうに。
私は黙ってツナに引かれるがまま。
ご令嬢たちの痛い視線が全身に突き刺さる。

「なまえ、こっちだけを見てて」

そんなこと言われて期待しない女なんていないでしょうよ。
私だって期待したいわ。
でも、したところで何も変わらないのよ。
貴方をどれだけ思っても、どうあがいたって貴方に思われないんだから。




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