short stories

□元勇者の恋の結末
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私の彼氏はリンクって言うんだけど、それはそれはすっごくカッコいい。
私なんかがリンクの彼女でいいのかな?って思っちゃうぐらいに。
そんなリンクは実は勇者様だったわけで。
あれから1年ぐらい経ったんだけど、リンクは相変わらず城下町に頻繁に通っていた。
そしてここ2ヶ月ぐらいは私をすごく避けてる。
最初は思い過ごしかな?なんて思ってたけど。
旅から帰ってきても普通だったし。
なんで今更って思ったけど、理由は見つからない。
そんなリンクに一緒に過ごそうと私は迫るのに、いつも「城下町で仕事だから」って逃げられる。
それが多くなったのもここ2ヶ月。
ねぇ、これって…


「リンクーたまには二人でゆっくり過ごそうよ」

「ごめん、今日は城下町で仕事任されてるんだ。
ごめんな、ナマエ」

今日"は"じゃなくて、今日"も"でしょ?リンク!
思わず言いたくなったけど、リンクの前では少しでも可愛い女の子でいたいから言えない。

「ごめん。また今度にさ、ゆっくり過ごそう」

結局こうやって曖昧に”今度”って。
今度、今度、今度ってもう今度っていつ?
その今度って来るのかな?
リンクの”今度”に私は何回待たされてどれだけ待たされるんだろう。
もしかしたらリンクって私のこと好きじゃなくなったのかな?
私のこと好きじゃなくなって、旅の途中に素敵な人と巡り会っちゃったのかな?
だからよく城下町に仕事って言って行っちゃうのかな?
愛想をつかされちゃってるのは私なのかな?


「ねぇ、リンク…」

思わず口が勝手にリンクを呼び止めていた。

「どうした?」

いつも通りにリンクは尋ねて来る。
「どうした?」じゃないよ、分かってよ。
いや、違う。逆だ。分かってるよ。
リンクが私のこと好きじゃないのかもって思ってるよ。
他に好きな人がいるのかなって思ってる、分かってる。
かっこよくて、優しくて、強くて、頼りになる勇者様だもの、きっと私よりもっともっともーっと可愛くて優しくて、リンクを癒してくれるような人がきっと城下町にはうんといる。
きっと国中旅してきたリンクにとったら、私は一日中畑で働いたり子供達と外ではしゃぎ回ったりする土臭い女で。
城下町の女の子みたいに綺麗に着飾ったり、お化粧したり、市場に買い物に行ったりしない、ただの田舎娘なんだ。

リンクが呼び止めたくせに一向に喋らない私を不振に思って、顔を覗き込んできた。

今の私はきっとリンクに見られちゃいけない顔してる。
こんな顔見られたらもっと嫌われちゃうかも。
さっきから考えることが全部マイナスなことばかり。
だめだな私。今日はもうだめ。
早く家に帰ろう。
そしてうんと泣こう。
気持ちがさっぱりするぐらいには泣かないと、きっとこの先リンクの顔なんて見れやしない。

「ごめん、何にもないよ。
気をつけて行ってらっしゃい」

零れ落ちそうな涙を押しとどめて、精一杯震えそうな声を我慢して。
リンクに迷惑がかからないように。
私はこうやって自分を押し殺す。

どうしたらいいんだろう。
こんなに擦れ違ってばかりなのに、リンクに別れようって一言も切り出せない。
だって私はまだまだリンクが好き。
大好きなのになんで私からそんなこと言わなくちゃいけないんだろう。


「ナマエ……?」

静かに呼ばれた私の名前は、静かなリンクの家に響いた。

「なんで…泣い、てるの?」


なんで?なんでだと思うの?
ねぇ、リンク。
もう私、分かんないや。
あなたの気持ちも、行動も考えも、全部全部。
ねぇ、私どうしたらいいの?


「ナマエが泣いてると俺、どうしたらいいか分からない」

急に何を言い出したかと思えば。
なんだ、そんなこと?
だって私、あなたの前で泣いてないもの。
泣いたらきっと困らせちゃう、不安にさせちゃうし、私に頼ってくれなくなりそうで…怖いんだよ。

「泣くなよ、ナマエ。
そんな顔見せられたら、ナマエのこともっと好きになるだろ」

「え?」


まって、今なんて言った…?
思わずリンクの顔を見てしまう。
泣き顔ばっちり見られちゃう。

「だから、もっと好きになるって……
言ってるんだよ」

「リンク…私のこと、好きじゃ、ないんじゃ…?」
「え?何言ってんの?

もしかしてナマエは俺がナマエのこと好きじゃないと思ってた…?」

「だって…だって…」


あぁ、もうだめ。
目の前がぜんぜん見えないよ。
涙しか見えない。
視界最悪。

それでも、今言わなくちゃ。


「旅から、帰ってきたと思った、ら…城下町に何度も、行くし…最近は、ずっと冷た、いし…避けてる、し…
もう、私のこと、好きじゃな、いのかなって…思って…
城下、町に好きな人…できたの、かなって…」

「なんで…なんでナマエがいるのに城下町の女の子のこと好きにならなきゃいけないんだよ!
俺は、ただ、普通に働いてただけなんだ!
ただお金を稼ぎたかったんだよ!」

「お金…?」

「うう…それは、、、また後で言う」

リンクは少し言い淀んで頭をがしがしと掻いた。
うーとかあーとか言って。


「最近、ナマエをその…避けてたというか、会ってなかったのは、好きが止まらなくなってきたから」

「どういう…「俺は、ナマエがどうしようもなく好きだから、いろいろと押さえきれなくなるんだよ。
今まで健全にお付き合いしてきたけど、俺だって男なんだ。
しかも旅から帰ってきて、勇者っていう肩書きからやっと解放されて…世界のこととか、人のこととか、ハイラルのこととか何も考えずにナマエの傍にいることが俺の中で普通じゃなくなってて、どうしようもなくナマエが欲しくなるんだ」


リンクの告白に私の涙は止まってしまった。
もうなにがなんだか分からないぐらいにリンクの気持ちが、考えてることが、行動が、全部が私にはやっと伝わってきた。

「じゃあ、リンクは…私のこと嫌いじゃない?」

「あたりまえだろ。
その反対、逆だ逆。むしろもっとか」

「もっと?」

「好きじゃない、愛してる。
だから…俺と結婚して下さい」



リンクが何処からともなく出してきた銀色の指輪に、私は言いようのない気持ちが込み上げてくることしか分からない。
もう、どうしたらいいんだろう。
また目から涙ばかり溢れちゃうよ?

「受け取ってくれないのか?」

「ううん、ください。
こんな私と結婚してください!」


リンクが太陽みたいに輝く笑顔をくれるなら、私は向日葵みたいな笑顔を貴方にあげたいな。



「これからは、俺の前だけで泣いて、俺にだけ頼って、俺にだけ弱音を吐いてほしいんだ。
俺はナマエの笑顔のためだったら何だってしたいから」

「私もリンクを、リンクだけを癒せる奥さんになりたい!」

そう言って抱きついたら、リンクは照れたように笑った。



「今までも十分癒してもらってきたよ。
こうやって俺を癒してくれるところも、熱心に畑仕事してるところも、子供達とはしゃいでる元気なところも、ぜんぶ、ナマエの全部が好きだ」


そう言った後リンクがくれたのは、




最高に甘いキスでした。







元勇者の恋の結末

(本当はもうちょっとしてからプロポーズしようと思ってたのに)
(なんで?)
(結婚式の費用貯めるためだよ)
(リンク、ありがとう!大好き!)








fin.
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