断片

□とらっしゅ。
1ページ/3ページ

「これで最後か……長かったなぁ……」

大量の段ボールを開封する作業もいよいよ大詰め。
さっさと終わらせてしまおうと封を開ける。
中には、何やらおもちゃが入っていた。

「ふぇ?何これ………」

大方、お母さんが勝手に詰めたのだろう。
魔法のステッキ、ピアノの付いた本、小さくてカラフルな鉄琴………

「あ、こんなのも………」

つぎはぎのぬいぐるみ。
お母さんが直してくれていたのだろう。
すっかり忘れていた。

あげてしまうか。
私が持っていても使い途はないし、必要な人に使ってもらった方が良いに決まっている。

貰ってくれる人は後で探すことにして、あげられそうな物とそうでない物を分けた。

そして、その日は眠った。





――――――――――――――





翌日、おもちゃを貰ってくれる人は直ぐに見つかった。
高校時代からの友達に、小さな弟が居たのだ。

私は、その友達に昨日仕分けたおもちゃを渡して、帰宅した。

「暇だなぁ……」

部屋は兎に角しんと静まり返っている。
まぁ、一人暮らしを始めたのだから当然か。

専門学校を卒業して、今はフリーター。
漫画家としてのプロデビューを目指し、バイトの傍ら、雑誌への投稿を続けていた。
尤も、現在ではその夢も消えつつある。

何がしたいのか分からない。
何をして良いのか分からない。
何が出来るのかも分からない。

………そろそろ、落ち着かないといけないのかな。



『凛々花ちゃん、遊ぼうよ』



「…………へ?」

不意に呼ばれて辺りを見渡す。
もちろん誰も居るわけは無いし、二階だから窓から………って事もない。

「なんだ、幻聴か」
『凛々花ちゃん、遊ぼうよ』

…………また。
しかも確かに私を呼んでいる。
この建物に、私と同じ名前の子が居ないとも限らない。

けど……………
時計を見ると、針は十時を指していた。
こんな時間に遊びに出ている子供も居ないだろう。

「……………変なの」

軈て声は聞こえなくなった。
だからその時の私は、それ以上何も考えなかった。





――――――――――――――





「夜中に声?子供の??」
「そうなんだ、ずっと」

あの日から、私を呼ぶ声は続いていた。
それも、日増しに回数が増えている。
流石に少し怖くなった私は、真希――おもちゃをあげた友達に相談してみた。

「幻聴かなって思ったんだけどさ」
「うん」
「どうしても止まないし」
「疲れてるんじゃないかな?」
「そんな訳ない、むしろ一人暮らし始めて気楽になってるし」
「どうかな………無意識に寂しさを感じてるのかも知れないし、仕事だってあるし」

真希はこういう時、真剣に考えてくれるからなんというか頼もしい。

それにしても、改めて言われると、自分はあまり上手く休めてない気がしてくる。
完璧主義者って訳でも無いが、中途半端が嫌いなのは昔からで、何でもきちんと終わらせないと気がすまない。
そのため、仕事が終わらなければ残業もするし、家に持ち帰るし。
場合によっては休み返上してでも終わらせる。

そんな生活を送っているので、高校卒業以来、真希とはこのバイト先の喫茶店でしか会ってない。
私はダブルワークなので尚更だ。

「やっぱさあ、休暇取ろうよ」
「うーん………」
「あ、ほら、前に言ってた伯父さんの別荘!一緒に行こう?」

真希の家は決してお金持ちではない。
しかし、真希の伯父さんというのが事業に成功した、所謂<勝ち組>らしい。

その伯父さんが、真希の為に別荘を貸してやると言っているという話を、私は前に聞いていた。
真希自身は、一人では行きたくないらしかった。

「でも良いのかな………」
「大丈夫だよ。凛々花は常識あるし、彼処って凄く広いんだもん。二階建てだよ?部屋がいっぱい!」
「真希がそんなに言うなら………」

なんやかんやで私は、真希の誘いに乗ることにした。


あんな事になると知っていれば―――
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ