断片
□禁忌
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天使と悪魔が暮らす世界が在りました。
二つの種は、同じ世界に住む隣人でありながら、決して交わることは有りません。
その先にどんな運命が待ち受けているか、知っていたからです。
けれど、その境界を越えたものがいました。
天使の方は男の姿を、悪魔の方は女の姿をしていました。
二人は初めて出逢ったときから互いに少しずつ惹かれ合い、そして恋に落ちました。
自分たちの行動が禁忌だと知りながら、夜毎にお互いの家へ通い、愛し合いました。
その時の二人は、幸せでした。
ある時、女の中に命が宿りました。
女は初めは喜びましたが、それを知った彼女の両親は憤慨し、彼女を勘当しました。
追い出された娘は、一人でその子を産みました。
そして、あの男の所へ連れていきました。
けれど彼は、二人を受け入れてはくれませんでした。
彼にとって大切なのは、何より自分だったのです。
哀しみに暮れた女は、胸に抱いた子供を見て、ぽつりと言いました。
「いっそ………こんな子供なんか産まれてこなければ………!」
次の瞬間、女の指は小さな子供の首を捕らえていました。
激しい憎悪の眼で、我が子を睨み付けていました。
苦しさと恐ろしさで泣き出した子供の声に、女は我に返りました。
そして自分のしていた事に嘆き、このままではいけないと考えました。
考えに考えた女の結論は、自分が子供から離れる事でした。
このまま一緒にいてはいつか殺してしまう、そう思ったのです。
母と子は、互いに一人ぼっちになってしまいました。