断片

□妄想少年
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僕、好きな人がいるんだ。

最初は友達だったんだけどね、一緒に居たら惹かれていった。
今ではもう、片時も彼女が忘れられない。

あの真っ黒な髪に触れたい。
あの細い身体を抱き締めたい。
あの強気な笑顔を独り占めしたい。

彼女への想いは、一秒毎に増していく。
僕は彼女を、カナを愛してる。



決めた、明日告白しよう。
もう我慢ができない。

全てを伝えるんだ。














――――――――――――――





「嫌だ、何言ってるの?」

それが

「だって貴方」

彼女の

「女じゃない」

答えだった。





何も言わなければ、ずっと一緒にいられたかも知れない。
でも、もう取り返しなんてつくはずない。

彼女は、もう二度と僕を受け入れてはくれないだろう。
二度と関わろうとはしないだろう。

何もかもおしまいだ。





その日の帰り道、僕は雨の中を傘も差さずに走った。
ひときわ目立つ赤い傘の中で、彼女と寄り添う男を見た。














――――――――――――――






どんよりと曇った土曜の朝。
身体に違和感を覚えた僕は、部屋の中の大きな姿見の前に立った。


そこに居たのは、見知らぬ少年。


その少年は、僕に少し似ていた。
僕と同じ色の髪、僕と同じ色の瞳。
僕より少し背が高くて、同じパジャマを着てる。



そして、鏡の少年は、僕の動きを逆さまにモノマネしていた。














――――――――――――――





何故だろう。
あまりにすんなりと行動出来たことに、自分でも驚いている。

あの日と全く同じ服を着て、同じ様に家を出た。
違うのはポケットの中身だけ。
行き先は彼女の家。
僕の足取りは、何かの決意に満ちていた。



ためらいなくインターホンを鳴らす。

誰と間違えたのか。
嬉しそうな、そう、僕には一度だって見せたことが無いような笑顔で。
彼女は扉を開けた。

「………誰?」

僕は答えなかった。
代わりに、あの日と同じ言葉を告げていた。



彼女の答えはまた同じ。

でも結末は、

















「ずっと一緒だよ、カナ」


僕はポケットの中身を握って微笑んだ。

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