断片

□ウラハラconduct
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「何故です?あの子は貴方の宝物でしょう?」
「だからこそ、頼みたいんだ」


その時にはまだ、あの方の意図する所が分からなかった。
私はあまりに未熟だったのだ。


「お前なら、愛してくれると信じている」


それが、私が聞いたあの方の最期の言葉だった。

私に託された一人の死神。
あの方が命を懸けて護った死神。
息子の様に可愛がっていた死神。



<禁断の子>、クリム。



彼が私の元へとやって来た。
周りからは反対や非難を受けた。
相手にはしなかった。
民間に伝わるお伽噺など信じてはいないし、あの方の言いつけは絶対だ。
たとえ、既に亡き者となっていようとも。

………ただ、私は憎んでいた。
私からあの方を一度ならず二度も奪った存在を。
何一つ悪くはないはずの彼を。



未熟で、盲目で、軽蔑さえに値する、そんな私だったから、あの日の間違いを起こしたのだ。








――――――――――――――







「ヴェルデ、クリムを貸してくれないかな」
「良いだろう、好きにしろ」
「恩に着るよ」


赤毛の同僚はニヤリと笑った。

私はクリムをよく他の死神のところでも働かせていた。
今冷静に考えれば、クリムが逃げ出したり不満を言ったりしなかったのが奇妙な位だ。
……いや、本当は陰で愚痴の一つもこぼしていたかも知れないが。


「これは、お礼」
「…別に要らないが」
「良いから」


同僚は無理矢理俺の手に何かを捩じ込んだ。
そして、キレイな手だな、と薄ら笑いを浮かべた。


「何だ、気味の悪い奴だな」
「そう言うなったら。さーて、お楽しみの始まりに向かって準備しなきゃな」


上機嫌に口笛なんて吹きながら歩いていく背中を見送る。
私の手には金貨が鈍く光っていた。






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