小さな魔法

□お嬢さんの恋煩い
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今の私は彼がいるから生きていると思うんだ!


わりと本気でそう言ったら,級友であるコハルに可哀想なものを見るような目を向けられた.


「あんた何言ってんの?」

「私よくコハルと友達になれたなあって思う」

「クラサメ先生は0組の担任,私もあんたも7組.カースト的に言えば私たちは下っ端.あんたになんか目もくれないわよ」


彼女の言っていることが的確すぎて何も言えない.
身分なんて関係ないと言うけれど,やっぱり関係があるものなんだ.そうなんだ.

でもクラサメ先生がとてもかっこいいのはまぎれもない事実だ.

クラサメ先生,本名クラサメ・スサヤ.
鴎歴816年生まれの26才,身長177cm(ちなみに学術局局長と2cm差でクラサメ先生の方が背が高い).
候補生時代はこれまたエリートの2組で,当時は朱雀四天王の「氷剣の死神」として畏怖(畏怖ってなんだ?)されたという,とても素敵な人.素敵なんて単語じゃ表せないね.素晴らしいぐらい!もしくはそれ以上!しかも容姿端麗!才色兼備!
もちろん他の候補生からも人気で,もう完璧としか言いようがない.

私は実習や空き時間くらいしかクラサメ先生にお目にかからないけれど,クラサメ先生は武装研究所のカヅサさんとたまに一緒にいて,よくおちょくられている.そんな先生も素敵なのだけれど!

ああ,またコハルの「アギト候補生としての自覚がなんたらかんたら」の話が始まった.
これは彼女の優しさの1つだ.私が傷付かないようにやたらと長い話をして諦めさせようとしてる.
私だって分かっているのよ.あわよくば先生に気にかけてもらいたいと思ってるよ.
でも好きなものは好きなんだ.やめられない止まらない!


「どうしたらいいと思います?」

「ごめん,僕にはさっぱり理解できない」


クリスタリウムの裏側の研究室.
私が変な実験に付き合わされそうになったのはもう半年以上も前のことだ.


「大体君ねえ,実験に付き合ってくれないくせに図々しいよね」

「じゃあ最初から始めたらいいですか?」

「話聞いてる?」


あれは私の初めての実習でした.
初めての実習がベスネル鍾乳洞だったもので,ベヒーモスは強いしでかいし怖いしで魔法の唱え方を忘れちゃって,まごまごとひとり1人で焦ってしゃがみ込んじゃったらベヒーモスが私目がけてやってきて,ああこれもう死ぬな,って思ってたクラサメ先生がブリザド撃って私を守ってくれたんです!指揮官だから当たり前だけど!
それで先生は私の腕を引っ張って「怪我は無いか,次こんなことになったら死ぬぞ」って言ってくれて,私はすごくときめいたんです!
それからは院内で会うと時々声をかけてくれて!マント曲がってるぞとかだけど!
だから私もがんばって声をかけてるんです!全部返答があっさりしてますが!

あと,クラサメ先生の実習は3回受けたんですけど,それからは0組の担任持っちゃったからもうクラサメ先生の実習は受けられないんですよね……残念.


「僕別にそういうこと聞いてないんだけど」

「私は傷付く前に諦めた方がいいんでしょうか.それとも続行した方がいいんでしょうか」

「……僕はクラサメ君はやめといた方がいいと思うな」

「なんでですか?」

「え?知らないの?」


カヅサさんは立ち上がって私が座っている椅子の後ろに回る.
そして私の耳元に口を近づけると囁くように言った.


「クラサメ君ね,エミナ君とできてるんだよ」


言葉が出なかった.人間驚くと本当に声が出なくなるんですね.
だって,待ってそれは,


「ほんとうですか……?」


声が震えてしまった.


「うん.だってほら,あの2人,同期だし,年近いし」


あの美人で優しいエミナ先生とクラサメ先生が……?

カヅサさんの言うことだから信用度は低いけれど,あり得ない話ではない.
何より,すごくお似合いだ.


「ちょっと,行ってきます……!」


私は研究室を出て走り出す.
クラサメ先生に会いますように!

今勢いで伝えてしまって,そのあとはコハルに慰めてもらおう.それが1番良い……


「わあっ」


0組の教室へと続く廊下への扉を開くと(ほんとは0組以外は立入禁止),いきなりクラサメ先生が出てきた.


「え,と,クラサメ先生,カヅサさんが,エミナさんと,」

「?カヅサとエミナがどうした」

「そうじゃなくて,クラサメ先生がエミナさんと,」

「?」

「ああ,違うんです.違くて,……好きです!」
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