小さな魔法
□おいおい冗談だろ
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おいおい冗談だろ
漫画やアニメで,キャラクターの目玉が飛び出てものすごく驚いているのを表現することがよくある.
勿論現実ではあり得ない.
が,目玉が飛び出るというのはこういうことなんだろうな,と思った.
私が目覚めたのは数秒前のことだ.
目を閉じたまま手探りでケータイを探す.
けれど手に触れたのはさらっとしたような感覚.髪の毛みたいな.
明らかに私のものと違うそれに吃驚して目を開くと,私の隣には変態が眠っていた.
大事なことなのでもう一度言う.
変 態 が!眠っていた.
こんな背が高くてスタイルのいい(肩までしか見えないけど)男性の体格で,私よりも長く綺麗な黒髪を持っているのはこいつしか見当がつかない.
しかも更に驚くことに,私も蜻蛉も服を着ていない.死にたい.
こんな私の心の内も露知らず,こいつは背中を向けてぐーぐー寝ている.水晶玉でも落としてやろうか.無いけど.
男女が2人同じベッドで裸ですることなんて1つしかない.
つまり私はこいつと,こんな変態と文字通り繋がってしまったのだ!なんたる失態!
私1人で焦っていても仕方ないと思い,私の部屋の私のベッドの上で私より遅く寝ている男の髪を強く引っ張る.
痛いかどうかなんて知るか!こっちは心が痛いわ!
ぐ,と音が出るんじゃないかと思うくらいに引いてみると,変態が私の方を向いた.
「………良い朝だな,雌豚よ」
………誰だこいつ.
このこざかしい口調や声はあの変態のものだ.
けれど,誰だこの顔.
誰だこの好青年は.
「…………どちら様ですか」
「もう忘れてしまったのか,我が雌豚よ」
「誰だか名乗れよ変態」
マスクをしていないと誰だか分からない.ただの好青年.
「昨夜はあんなに激しく私のことを求めていたではないか」
「求めた記憶がないんだけど.私とあんたが素っ裸で同じベッドで寝ていることを今すぐ説明しろ」
「1つ言いことを教えてやろう」
「話を聞け」
変態は私の背中を強く押して自分の方に引き,私の耳に口を寄せる.
「好きだ」
(だからなんであんたと私が寝ているのかって)