小さな魔法
□チョコレート・グラス
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※現パロ
「…………あれ.」
朝食のトーストと卵を食べ終えて,食器を洗って,歯磨きをしに洗面所へ行った.
そして再びダイニングに戻ってきてテーブルの上にあるグラスに口をつける.いつものこと.なんのかわりもない.
(なんかこれ,チョコレートの味がする)
「どうかしました?」
シャツに腕を通しながらルカが言った.
それは毎日私が洗濯しているものだと思うと,口元が綻びそうになる.
「なんかこれ,チョコレートの味がするの」
「チョコレート?」
「うん」
グラスに入っているのは正真正銘ただの麦茶.私は今日すでに2回口をつけているから分かる.
「どうしてなんだろう…」
ルカがシャツのボタンを締めるのを,私も手伝った.ルカは私と違って朝食をとってから着替えるのだ.
黒いネクタイを締めると,ルカが嬉しそうに笑うので,私も思わず口元を緩めた
「…………なによ」
「いえ,なにも」
「笑ってるじゃない.何かあるんでしょう」
「ないですよ」
「ほんとうに?」
スーツの上着をとって,腕を通させる.
ルカはまだ笑っていた
「どうしたの.絶対何かあるんでしょう」
「大丈夫ですよ,なにもないです.私はもう家を出ますね」
「なにが大丈夫なの.全然大丈夫じゃないんだけど」
時計を見ると,確かに家を出る時間だ.
鞄を持たせて玄関まで見送りに行く.
ルカは靴を履くと私の頬にキスをした.
「行ってきますね」
「絶対なにかあるんでしょう.」
「なにもないですって」
私も頬にキスを返す.
キスを送りあうのは日常的なことだ
ルカは微笑んで家を出ていった.
私はあと10分ほどで家を出る.
食器でも片付けるか,と思いキッチンに向かう.
すると棚の角にものすごい勢いで腰をぶつけた.
「…………………っ」
声にならない痛み.
ぶつけた拍子に何かが転がってきた.
腰を抑えながらそれを拾い上げると
「チョコレートクリーム…」
私はトーストには何もつけないけれど,ルカはジャムとかクリームが無いとトーストを食べられないので毎朝つけている.
チョコレートクリームに代えたのか.この前まで苺ジャムだったのに.
「……………………」
鞄の中から携帯を取り出して,履歴からルカの番号を押して電話をかける
3コールほどしたあと,ルカは電話に出た
「もしもし?」
「私のグラスで麦茶飲んだでしょう」
「…………………」
「…………………」
「…………ばれました?」
「さっき笑ってたのはこれだったのね.もう.何回言えば済むのよ」
ルカは度々私のグラスを使う.
しかも,無意識ではなく意識して.
そのたびに私は注意するのだ.
私のグラスで飲まないで
と.
今の所それは守られていない.
「なんでわざわざ私ので飲むの.自分ので飲んでくれない?」
「名無しを感じられる気がして」
「馬鹿じゃないの」
変態的.
20120724