小さな魔法

□春が来る前に
1ページ/1ページ


※現パロ

















窓から夕焼けが見えた.
空が赤紫みたいな色に染まっている.


すぐ隣にある棚の引き出しから,折り紙を取り出した.
普通の折り紙じゃ味気ないから,と色々な色や柄の千代紙を大学生の姉が定期的に買ってきてくれるもの.
それを一枚取り出して,半分に折った.


ここに来てから,1日1つ,鶴を折るようにしていた.
最初は些細な数だった鶴も,今では紙袋に入れなければいけない程.

最後に家に帰ったのはいつだっけ.
思い出してみれば,もうかなり前のことだ.


入院が長引く私に両親は個室をあてがった.
毎日午前中には母が,3日に1日くらいのペースで中学の友達が来てくれていた.
高校へは行ったものの,出席日数が足りなくて留年.普通科は無理だということになり,通信の高校に入った.

私も部活とか,体育祭とか,文化祭とか,合宿コンクールとかやりたかったなあと思う.
それだけじゃない.
放課後友達とカラオケとか,買い物とか,してみたかったな.

でもベッドの上じゃ何もできやしない.

元々持病があって,運動はできなかった.
だから運動会も体育祭も毎年見学.
去年になって病気が悪化して,学校に通うこともできなくなった.


神様は不平等だ,
そう思いながら鶴を1つ折りあげた.


時計を見上げると,16時半.そろそろかな.


コン,コン,コン,と3回ノック.

3回ノックする人物を,私は1人しか知らない.



「はあい」



声をあげてドアを開きに立ち上がった.
歩くくらいはできる.

ドアを開くと,予想通りの人物がそこにいて,私は頬を緩めた.
金髪で長髪の彼も頬を少し緩めて,私の病室に入る.



「外寒い?」



ベッドに戻りながら言う.
涯は棚の上に巻いたマフラーを置いて,コートを脱いだ.



「2月だからな.なかなか」



涯は毎日,私のお見舞いに来てくれていた.
涯と私は幼なじみで,小さい頃はよく遊んでいた.
中学生になってからはそんなことはなくなったけど,私が入院してからは毎日来てくれた.


ビニール袋を差し出されたので,それを受け取る.



「今日のはなに?」

「オレンジ」

「酸っぱそう」

「じゃあ返してもらう.」


ちゃんと食べますー,と口を尖らせると,涯は微笑んだ.そしてナイフを取り出すとオレンジの皮を器用に剥いていく.



「テストいつから?」


「水曜日.」


「明日じゃん!こんな時にこんなことしてる場合じゃないよ!」


「こんな時だからだ.ほら,剥けたぞ」



納得いかないままオレンジを口に運ぶと,案の定酸っぱかった.



「…………涯」


「ん?」


「涯はさ,彼女とかいないの?」


「いたらここには来ないだろ」


「そうだろうけど……」



涯は綺麗な顔をしてるから,きっと女の子にモテると思うんだ.
それに,前にツグミが涯が女の子に告白されているところを見たと言っていた.

私なんかのところにいるべきじゃないんだ.



「彼女つくらないの?」



そう言うと,呆れたようにため息をつかれた.

私なんか悪いこと言ったかな?
ティッシュで手を拭くと,涯は口を開いた.



「お前がいるだろ」


「え,」



それは,どういう意味なんだろう.
私は涯の彼女ではないはずだし



「お前がいるから,彼女はいらない」


「そういうものなの?」


「俺はな」



そういえば涯は毎日私のところに来るけど友達いないのかな.
だからかな.



「春になったらさ,お花見したいな」


「花見?」


「うん.ほら,近所の公園でさ.昔はよくしてたよね」


「じゃあ早く退院しろよ」

「うん!」



涯に彼女ができませんように.

そう願いながら,私の想いは心にしまった.

好きなんて,涯の負担になるようなこと絶対言えない.




20120829


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ