short dream

□グラハム追悼
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彼とはもう,出会ってからかれこれ8年になる.

そりゃそうだろうな.当時22才だった私も気付けば30で,彼はもう34だ.
でも,年をどれだけとっても私自身の感情に特に変化は無く,若干おおらかに物事を考えられるようになっただけだ.
どれだけ戦争が起こって,世界が変わっていってもだ.

それから,もうひとつ,あの頃の考えは変わらないでいた.

父親がいて,母親がいて,子供がいる.そんな“普通”の家族.
私には生まれつき家族がいなかった.
だからこそそんな家庭に憧れて育った.
自分も家族を作りたい.
今となってはもう叶わないけれど.

18の時に軍に入ることを志し,国内外でも名門の軍事学校へ入学し,大学院へ進んだ.くだらない愛国心のために.
そこは旧ユニオンでも旧人革連でも旧AEUでも有名な技術者や戦術予報士やパイロットが出ていたし,間違いはないと思ったからだ.
案の定素晴らしい学校だったし,私は首席で卒業したので卒業後は憧れのユニオンのMSWADへの着任が決まった.
毎日血の滲むような努力をしてやっと掴んだチャンスを逃すことなく掴みとり,念願のユニオンのMSWADへ.
夢のようだった.憧れ続けていたユニオンの技術者にやっとなれるのだ!

たけど現実は甘くはなかった.
大学で覚えたことよりも更に覚えることがあり,何度も重ねてきたシュミレーションのようにはなかなか上手く事が進まず,多少ナーバスになっていた.

そこで手を差し伸べてくれたのが彼だ.
彼のことは大学に居た時から知っていた.
ユニオンのエースパイロット,グラハム•エーカー.
そして彼の技術顧問もまた,私の憧れだった.
彼は私に言った.焦らなくていいと.
たまたま一緒になったエレベーターの中でだ.
その時私は重大なミスを侵したのと,それまでの行いから泣き出しそうになっていた.

そんな私に対して声を掛けた彼は,天使のように思えた.

たった一言.一言だったけれど,それに私はひどく救われたんだ.

それからは話す事が多くなった.
基地内ですれ違った時.食事の時間が重なった時.2人で食事へ出かける事も少なくはなかった.
一線を越えたのは彼の方からだ.
いつものように夕食を一緒に済ませ,彼が私を部屋に送った時の事.
帰り際に,彼は私にキスをした.
それが私がMSWADに入ってから半年経ってからのこと.
私は飛び級で大学院を出ていたので,当時23だった.
それから7年以上一緒にいるのだから長いものだと思う.
ユニオンから地球連邦,流れでアロウズに入隊し,アロウズ解体後は地球連邦へ.

一昨年,そろそろ結婚してくれと私の方から言い,今年は結婚して2年目になる.
結婚しても私は軍を辞めなかったけれど,今は今で幸せだ.

そして先日,謎の金属生命体が地球へ近付いていると報告があった.
軍をあげての総力戦となった.
勿論,グラハムも例外なく宇宙へと行った.
宇宙へと行った人が次々と負傷し,死亡したのは聞いていた.
私は止めた.あなたに死んでほしくはないと.
軍人のくせに何を言っているんだという話だけど,止めずにはいられなかった.
それでもグラハムは行くと言って聞かなかった.
私は尋ねた.最愛の妻が行くなと言っているのにあなたは行くのかと.
グラハムは,生きて帰って来ると言った.
珍しく喚くような泣き方をした私に.
それまでは忙しく,一緒に寝る暇もなかったけれど夜は彼の胸に抱かれて眠った.

そして,今日に至る.
私に生きて帰って来ると言った彼が,帰って来ない.
信じられない.グラハムが帰って来ない?何事だ.
彼は私に生きて帰ると言った筈だ.
彼が墜ちる訳がない.何かの冗談だ.彼は特攻して行ったと言うの?
彼に抱きしめて欲しかった.キスをして欲しかった.また一緒に眠りたかった.愛してると言って欲しかった.

最愛の夫のお墓の前に,私は泣き崩れた.
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