怖い話A

□「姦姦蛇螺」
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小中学の頃は田舎もんで世間知らずで、特に仲の良かったA、Bと三人で毎日バカやって荒れた生活してたんだわ。
オレとAは家族にもまるっきり見放されてたんだが、Bはお母さんだけは必ず構ってくれてた。あくまで厳しい態度でだけど、何だかんだ言ってBのためにいろいろと動いてくれてた。
そのB母子が中三のある時、かなりキツい喧嘩になった。内容は言わなかったが、精神的にお母さんを痛め付けたらしい。
お母さんをズタボロに傷つけてたら、親父が帰ってきた。一目で状況を察した親父はBを無視して黙ったまんまお母さんに近づいていった。
服とか髪とかボロボロなうえに、死んだ魚みたいな目で床を茫然と見つめてるお母さんを見て、親父はBに話した。B父「お前、ここまで人を踏み躙れるような人間になっちまったんだな。母さんがどれだけお前を想ってるか、なんでわからないんだ。」
親父はBを見ず、お母さんを抱き締めながら話してたそうだ。
B「うるせえよ。てめえは殺してやろうか?あ?」
Bは全く話を聞く気がなかった。
だが親父は何ら反応する様子もなく、淡々と話を続けたらしい。
B父「お前、自分には怖いものなんか何もないと、そう思ってるのか。」
B「ねえな。あるなら見せてもらいてえもんだぜ。」
親父は少し黙った後、話した。
B父「お前はオレの息子だ。母さんがお前をどれだけ心配してるかもよくわかってる。だがな、お前が母さんに対してこうやって踏み躙る事しか出来ないなら、オレにも考えがある。これは父としてでなく、一人の人間、他人として話す。先にはっきり言っておくがオレがこれを話すのは、お前が死んでも構わんと覚悟した証拠だ。それでいいなら聞け。」
その言葉に何か凄まじい気迫みたいなものを感じたらしいが、いいから話してみろ!と煽った。
B父「森の中で立入禁止になってる場所知ってるよな。あそこに入って奥へ進んでみろ。後は行けばわかる。そこで今みたいに暴れてみろよ。出来るもんならな。」
親父が言う森ってのは、オレ達が住んでるとこに小規模の山があって、そのふもとにある場所。樹海みたいなもんかな。山自体は普通に入れるし、森全体も普通なんだが、中に入ってくと途中で立入禁止になってる区域がある。
言ってみれば四角の中に小さい円を書いてその円の中は入るな、ってのと同じできわめて部分的。
二メートル近い高さの柵で囲まれ、柵には太い綱と有刺鉄線、柵全体にはが連なった白い紙がからまってて(独自の紙垂みたいな)、大小いろんな鈴が無数についてる。変に部分的なせいで柵自体の並びも歪だし、とにかく尋常じゃないの一言に尽きる。あと、特定の日に巫女さんが入り口に数人集まってるのを見かけるんだが、その日は付近一帯が立入禁止になるため何してんのかは謎だった。
いろんな噂が飛び交ってたが、カルト教団の洗脳施設がある…ってのが一番広まってた噂。そもそもその地点まで行くのが面倒だから、その奥まで行ったって話はほとんどなかったな。
親父はBの返事を待たずにお母さんを連れて2階に上がってった。Bはそのまま家を出て、待ち合わせてたオレとAと合流。そこでオレ達も話を聞いた。
A「父親がそこまで言うなんて相当だな。」
オレ「噂じゃカルト教団のアジトだっけ。捕まって洗脳されちまえって事かね。怖いっちゃ怖いが…どうすんだ?行くのか?」
B「行くに決まってんだろ。どうせ親父のハッタリだ。」
面白半分でオレとAもついていき、三人でそこへ向かう事になった。あれこれ道具を用意して、時間は夜中の一時過ぎぐらいだったかな。意気揚揚と現場に到着し、持ってきた懐中電灯で前を照らしながら森へ入っていった。軽装でも進んで行けるような道だし、オレ達はいつも地下足袋だったんで歩きやすかったが、問題の地点へは四十分近くは歩かないといけない。
ところが、入って五分もしないうちにおかしな事になった。
オレ達が入って歩きだしたのとほぼ同じタイミングで、何か音が遠くから聞こえ始めた。夜の静けさがやたらとその音を強調させる。最初に気付いたのはBだった。
B「おい、何か聞こえねぇか?」
Bの言葉で耳をすませてみると、確かに聞こえた。落ち葉を引きずるカサカサ…という音と、枝がパキッ…パキッ…と折れる音。それが遠くの方から微かに聞こえてきている。
遠くから微かに…というせいもあって、さほど恐怖は感じなかった。人って考える前に動物ぐらいいるだろ、そんな思いもあり構わず進んでいった。
動物だと考えてから気にしなくなったが、そのまま二十分ぐらい進んできたところでまたBが何か気付き、オレとAの足を止めた。
B「A、お前だけちょっと歩いてみてくれ。」
A「?…何でだよ。」
B「いいから早く」
Aが不思議そうに一人で前へ歩いていき、またこっちへ戻ってくる。それを見て、Bは考え込むような表情になった。
A「おい、何なんだよ?」
オレ「説明しろ!」
オレ達がそう言うと
Bは「静かにしてよ〜く聞いててみ」と、Aにさせたように一人で前へ歩いていき、またこっちに戻ってきた。二、三度繰り返してようやくオレ達も気付いた。
遠くから微かに聞こえてきている音は、オレ達の動きに合わせていた。オレ達が歩きだせばその音も歩きだし、オレ達が立ち止まると音も止まる。まるでこっちの様子がわかっているようだった。
何かひんやりした空気を感じずにはいられなかった。
周囲にオレ達が持つ以外の光はない。月は出てるが、木々に遮られほとんど意味はなかった。
懐中電灯つけてんだから、こっちの位置がわかるのは不思議じゃない…だが一緒に歩いてるオレ達でさえ、互いの姿を確認するのに目を凝らさなきゃいけない暗さだ。
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