怖い話A

□「集落」
1ページ/2ページ

もう20年以上前、少年時代の話である
俺は名は寅、友達は雄二と弘樹と仮名をつけておく
あれは小学校六年生の夏休み
俺達は近所の公園で毎日のように集まり、遊んでいた
夕焼け空が真っ赤に染まりだした頃
「そろそろ帰ろうか」と弘樹が言い出す
片親で家に帰っても一人ぼっちの雄二は
「もう少し遊ぼうや」と俺達2人を引き止める
門限に厳しい弘樹は
「ごめんな、また明日遊ぼうや!」と言い帰って行く
弘樹の姿が見えなくなると、決まって雄二は
「あいつ毎回付き合い悪いのー」と愚痴りだす
すっかり暗くなった公園には俺と雄二の2人きり
雄二の話に適当に相槌を打つも、早く帰らねば俺も親に叱られる
そんな俺の挙動が伝わったのか、雄二は少しイラついた顔をして
「寅も帰りたいんやろ?かえればいいやんか」と言い放つ少しムッとしたが、何時ものことだと自転車にまたがろうとすると
「俺、こないだ廃屋みつけつたんよねぇ」雄二が言う
どうせまた引き止めようと興味を引こうとしてるんだと思い
俺はあえて聞こえないふりをし、自転車を走らせようとすると
「俺今夜、廃屋に探検しに行ってくるわ〜」とさっきよりも大きな声で言った
廃屋、探検、興味はあったが、親に怒られたくなかったので
「雄二、お前もはよ家帰れよ〜」と言って、家へ帰った
どうせ一人で行く勇気もない癖にとその時は思ってた
家へ帰り、風呂に入り、晩飯を済ませた頃だった、ジリリリリンと電話がなる
もしもし、と電話に出ると雄二の母親からであった
「あんたんとこにうちの雄二いっとらんかね!?」
乱暴な言い方に軽くムカッときたが
「雄二君ならまだ公園であそんでるかも」と言うとガチャっと電話を切られた
雄二の母親にはムッときたが、雄二が帰宅してないと聞き少し心配だった
雄二は少し悪ガキで、夜遅くまで遊んでいる事が多く、悪い連中と付き合いがあると噂されていた
夜も十時をまわり、床に就くと遊び疲れか、すぐに眠ってしまった
翌朝早朝、母親が血相を変えてたたき起こしに来た
「雄二のお母さんから電話がかかって、昨日から家に帰ってないってさ!ここにいるんじゃないかって怒鳴り散らすんよ〜」
またかよ、と思ったが一晩も家に帰らないのは初めてだし
本当に昨日言っていた廃屋へ探検しにいって何かあったんじゃないかと心配になってきた
弘樹に電話をして、事の経緯を話すと、弘樹の家にも同じ様な電話がかかったらしい
取り合えずいつもの公園で待ち合わせをして、落ち合った
「雄二とはもう付き合うなって母ちゃんに言われて大変だったよ」弘樹が疲れた顔で言う
「あいつの母ちゃん変わってるよな」と俺が言うと
弘樹が
「まあ、それも解る気がするわ・・」と意味深な事を言った
「???解る気がるって??」俺が聞くと
「あ。なんでもないよ、それより雄二の行きそうな場所探さんと」
そして俺達はよく三人で遊んだ場所をぐるぐる回ったが
雄二は見つからなかった
一旦公園へ戻り、水を飲み休憩していると
公園の横を雄二の母親が車で通りかかった
俺達に気がついたのか車のスピードを落としゆっくり通り過ぎていく
雄二が帰ってこなかったせいか、充血した眼でギロっと俺達を睨みつけ去っていった
心なしか口元がぶつぶつ何かを言っているようにも見えた
「おっかねぇな・・」弘樹が言った
「・・・・はは・・」
「そういえば寅さぁ昨日俺が先に帰った後、雄二なんか言ってなかったんか?」
「ああああああ!!」
アホな俺は廃屋の話を弘樹に言われ思い出した
昨日の会話を弘樹に伝えると
「廃屋かぁ・・多分あそこにあるやつやないかなぁ・・」
弘樹は何か知っている風だった
「弘樹、場所わかるんか?わかるんなら行って見ようや」そう俺が言うと
「う〜ん・・あんまし行きたくない〜・・」
と弘樹がごねる
煮え切らない弘樹に業を煮やして
「お前、雄二が心配やないんか?はよ行くぞ!」
嫌がる弘樹に案内させ、自転車を漕ぐ事1時間
道路も途中から舗装されてなく、砂利道に変わった
「この集落の先にあるんやけど・・・」
たどり着いた場所は川沿いの小さな集落だった
「ここって・・・もしかして○○地区ってとこ??」
「・・・そうそう」
弘樹が嫌がった理由がわかった
ここは絶対に近づいてはいけないと親達にいつも言われている地区だった
集落の家屋は半分以上朽ち果てたようなものばかり
歩いている人の身なりも煤け汚れていた数人の老人がこちらに気がつくと足を止めてこちらを凝視してくる
その眼はどれも荒んで、憎しみさえ感じられるほど強い視線
よく見ると、日本の物ではない小さくボロボロな国旗が風に揺れていた
「弘樹・・例の廃屋ってのはこの地区の中にあるんか?」
「いや、確かこの地区の少し先の山の中だったはず」と小さく答えた
「そこへ行くにはこの集落の中通らんと行けんのか?」
「・・・・うん」
50メートル先では数人の住民が俺達の事をじっと見ている
恐ろしかったが、友達も心配だ
俺達は腹を決め、怪しまれない程度の速度で自転車を走らせる
なるべく視線をあわせないよう進んでいく
少し進んでいくと、数人の老人が地べたに横になっていた
自転車で進む俺達に気がつくと、上体をむくっと起こして、俺達の事を見ている
見ない振りをしながら先へ進む
集落を抜けた辺りで、弘樹の自転車が急に止まった
そして転がり落ちるように道の端へ走りだした
「おい、弘樹どうしたんか!?何してるん!?」
声をかけると弘樹は急に道の端でげーげーと嘔吐した
「大丈夫か??具合が悪くなったんか??」背中をさすりながら声をかける
すると弘樹が
「寅・・・あそこ・・」
弘樹が涙目で指を差す
弘樹の指差した場所には、たくさんの頭のない鶏が木に吊るされていた
食べる為に血抜きをしているのか、地面には真っ赤な血の水溜りが出来ていた
それを見た俺も思わず嘔吐してしまった
慌ててその場を離れ、少し休憩しようと
山に入り人目につかない木陰に自転車を隠し腰を下ろした
「弘樹よぉ・・廃屋がここにあったとしてもよ、雄二の奴一人でこんな場所これるかな?」と言うと
弘樹は少し俯き、小さな声で
「これるよ」と言った
「う〜ん、俺なら絶対無理やな。うん、無理だ」
「寅よぉ、お前、知らんのか?」不意に弘樹が言う「ん?何を?」そう聞き返した時だった
数人の男が集落のあった方向から山へ入ってくるのが見えた
「やばい、寅、隠れよう!」
俺達は木陰に身を低くし、様子を伺った
大きなズタ袋を老人が数人で担ぎ、山を上がっていく
老人達はニヤニヤしながら俺達にはわからない言葉で会話している
「あいつらなんて言ってるんだ??」
「それより寅、あいつら廃屋の方へ行っとるかも・・・」
仕方なく俺達はびくびくしつつも
老人達と距離をとって後をつけた
しばらく進むとバラック小屋のような建物が見えてきた
「寅、あれが例の廃屋だよ」弘樹が言う
「そういえばずっと気になっとったんやけどさ
弘樹はなんでここ知ってるん?」俺がそう聞くと
「ん?ああ、お前とは六年になってから仲良うなったよな
俺は雄二とは三年の頃から友達での
いっぺんだけ来た事があるんよ」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ