**銀×土

先生、質問があります。
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(……あ、これ)

学校帰りのコンビニ。
赤やら黄色やら、やたら派手な色合いの包装の上に、ハートや星や果物の絵が描かれた賑々しいそれを見かけ、思わず顔が緩んだ。

つい先日、屋上でフェンスに肘をつき、ぼーっと空を眺めていた時。
知らぬ間に隣に立っていたあの銀髪の先生が好きな、飴だ。

(お、どーした土方。ムズカシー顔して)
(は?)
(ほれ。大抵の悩みは甘いモンで一発解決だ。糖分は偉大だぞー)

そう言って膨らんだ白衣のポケットをゴソゴソと探り、ひょい、と俺の口に放り込んだのは、この中のどれだろう。

かろん。

棒つきの小さなそれが、軽く歯に当たってから口の中におさまった瞬間、不意に与えられた甘さにちょっとたじろいだ。

(……甘っ)

いや、もしかしたらむしろ、先生のそんな行為にたじろいでしまった方が大きかったかもしれないけれど。

(俺のとっときのいちごみるく味。皆には内緒だぞ)
(……先生のポケットの中って、こんなのばっか入ってんですか?)
(うん、まぁそーね。ほら切れると大変だから。禁断症状がでるから)

とろり、と舌の上に甘さが広がって。それがどんどん口の中を満たしてきて。
それになんだかおかしなほど困ってしまい、つい、反抗的な物言いをしてしまったけど。
でも先生は全く気にも留めない風だった。

ちょっと肩の力が抜けて、心の中でホッと息をついた。
それなのにでも、先生がちょんちょん、と自分の眉の間を指し、眉間にシワ寄ってんよ、と教えてきた。

まあ、俺がそんな顔になっちまうのはしようがないことだ。
だってもう、どういう顔していいかわからないんだから。
顔の筋肉の動かし方すら、忘れちまったんだから。

(そんな顔してっと、かわいい顔が台なしだぞ〜)
(はぁ?)

かわいい……?
言われ馴れない単語に戸惑って、どうやらますます眉根が寄ってしまったらしいと、垂れ目気味の瞳を眇めて苦笑いする先生の表情で知る。

(……そんなこと言われたの、初めてです)
(え?そう?……あー、そか。綺麗とか格好いいとか、そっちの方か)
(……)

まさかその通りですというのも憚られたのと、ふと頭を過ぎった物思いに、口を噤んだ。

……先生からしたら、俺なんか子供なんですかね。

(何悩んでんだ?)
(え……?)
(ストーカー行為に明け暮れる委員長のことか?尾崎ばりに校舎の窓ガラス壊して回ってあわや停学寸前になったクラスメイトか?)
(いえ……まぁ……。それはいつものことなんで)
(それもそっか)

素っ気ない俺の返答にもまるで頓着せず、変わらない飄々とした態度に救われ、そして傷ついた。

でも、普段、生徒のことなんか放っときっぱなしのくせに。
本当に困ってそうだと、気づいてくれるんですね、先生。

(ん?なに?)
(……なんでもないです)
(あんだ。ヘンなヤツだな)

変にドキマギする、と言われたことのある瞳でじっ…と見つめてみても、その食えないような表情はまるで変わらず。
こんな話題なのに、カタカナで喋ってるみたいな国語教師らしからぬ軽い口調も何ら変わらず。
やっぱり先生はいつもの先生のままだったけど。

でも、その緊張感のなさや気怠い雰囲気がやっぱり、いつも通り妙に安心して心地好く感じるのもまた事実だった。


「おいトシ?え、それ買うのか?」
「ん、ああ……」

見つけたいちごみるく味は、淡いピンクと白い包装が、中でも一段と可愛らしいものだった。

「買わねぇ」


でも先生?

悩みの内容が実はある程度わかってて……その上で近付いて来てくれたんじゃないかって、そう思ったりもしたんですよ。
先生くらい、人を食ったような人なら、それももしかしたらアリかなって。

なんて。

それは買い被りすぎですか。
俺の子供っぽい願望に過ぎませんか。
先生はそこまで意地悪ではありませんか。


俺の悩みはね、先生。
貴方が好きだってことです。



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