**近×土

蜜月。
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そこは、海から少し入った静かで落ち着いた土地にあった。

客室が全部で数部屋しかないこじんまりした旅館は、その全ての部屋が離れの様になっていて、広い窓から庭を眺めると、周りに趣味よく四季折々の草花が植えられていた。
そして、部屋つきの檜風呂から直接行ける、自室専用の露天風呂がある。
涼しげな木立の下に石造りのそれを見つけて、こっそり赤くなった。

「いいとこだな近藤さん。ホント、こんな所どうやって知ったんだ?」
「ああ、お偉いさん連中に酒の席でな。何気なく聞いてみた」
「ふうん。あ、池もあんだな」

仕事以外で2人きりになるのは、一体、何週間ぶりだろう。
しかも、他に誰もいない、完全な2人きり……。
こればかりは初めての体験だ。考えれば考えるほどに動転してしまいそうな僥倖に、そわそわと落ち着かなくて、饒舌になってしまっているのがわかる。

そんな俺の落ち着きのなさに、気づいているのかいないのか、どれどれ?と言いながら近付いてきた近藤さんに、ゆったりと後ろから抱きしめられた。

「!!」
「ああ本当だ。いい景色だな」
「う、ん……」

久しぶり、の……近藤さんの腕の中……。

ふわり、と身体を包み込む柔らかな温かさに、不似合いなほど大きくひとつ、心臓が跳ねた。

緩く回された腕が、俺の腹の前で組まれてる。
身体がすっぽりと抱き込まれて、俺の顔のすぐ上で近藤さんの息遣いの気配がする。
近藤さんの匂いが、近い。

一足飛びにひどくなった心臓のドキドキに息を詰まらせながら、身体を硬くしていると。
俺の肩の上にとん、と顎を乗せられ、また身体がこわばった。

「……っ!……」
「ト〜〜シ」
「なっ、なにっ?」
「もしかして、すげぇ緊張してる?」
「……っん、……だ、だって……っ」
「ん?」
「久しぶり……だもんよ……。ドキドキ、する」
「わぁ、トシ素直」
「っ、……ってかっ……近、いっ!!急に近すぎ……っ……っん!ぁん……!」

だからしょうがないだろ、と続けようとした抗議は、近藤さんの唇に吸いとられた。

「……ぁ、あん……ん……ん」

しっとりと合わせられて、一気に力が抜けてしまった。
開いていた唇の隙間から舌を差し込まれ、口の中を一撫でされたあと、舌に絡んできて優しく吸われ、ますます身体に力が入らなくなる。

「ぅん……くふぅん……」

ゆったりとあやすような優しいキスに、あっという間に蕩かされて、鼻から甘えた吐息が漏れた。

近藤さんの男らしい大きな口が、くちゅ…くちゅん…と小さな水音をたてながら、何度も何度も俺の唇を優しく啄んでくる。
震えてしまう舌を、近藤さんの尖らせた舌でなぞられてくすぐられてから、きゅうと巻きついてきたそれに絡めとられて、ちゅくちゅくと吸われる。
口の中に溜まってしまう唾液を、んくんくと懸命に飲むけど追いつかず、唇の端から溢れてしまっては顎をつう…と伝うのがわかった。

気持ちいい。
気持ちいいよう近藤さん。

待ち焦がれてたキスに、どこまでも蕩けてぽー…となり、後ろから抱きしめてくる近藤さんの腕を力の入りきらない指先できゅうと弱く掴みながら、ただ、されるがままになる。

「ふ、わぁ……ん……んんぅ……」
「……ト、シ……」
「……ぁっ、……や……」

どれくらいの間そうされていたのか。
そしてとうとう、ちゅ…と優しい水音をたてて離れていってしまった唇に、寂しさがこみ上げて名残惜し気な声が漏れてしまった。

でも、だってさみしい。
唇、さみしい。

「やぁん……近藤さ…………もっと」
「……!」
「っん!……んっんっ……」

首を傾けて近藤さんを見上げてお願いしたら、どこか潤んで霞がかったような視界の中、一瞬目を見張ったような表情をした近藤さんが直ぐにまた唇を塞いでくれて、安心した。
うれしい。
さっきよりも大きく口を開かされて、もっとたくさん舐められて絡められて、うんと強く吸われる。
口の中が近藤さんの舌でいっぱいになるようなキスに、夢中になる。

「うふ……うふぅん……こんろ、はん……こんろーさぁん、ん、……んーぅ……」
「トシ……トシ」
「ふんん……あんー…………も、」

もっと。か、もうどうにかして。か。

自分でもなにを漏らしてしまうつもりなのかわからない、そんな甘い霞みの意識の最中、ようやっと、自分からもその舌を吸い返そうと舌を伸ばした、その瞬間。

いきなり、「失礼します」と襖の向こうから声を掛けられて、霧が去った。



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