銀魂拍手小説

□人妻キラー
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もう何日も雨が降り続いている

長屋も出払ったばかりで、しかも手持ち金が底を尽いて、エリザベスと二人ビチャビチャになって橋の上で震えていた

誰か通り過ぎたかと思うと、ひとつしかない傘を俺とエリザベスの間に差して女は笑った





「どうりで見たことある顔だと思ったの」


台所で夕飯の支度をする女は後ろで頭を拭く俺に話し掛けてきた

びしょ濡れの俺達に風呂を貸してくれたついでに食事まで用意して…

ちなみに今俺が着ている着流しは旦那の物らしい

くるりと振り返ると冷蔵庫から出したビールを渡された


「旦那のなんだけどね?あさってまで帰って来ないから飲んじゃって」

「…………指名手配犯を匿う事になるぞ……?」


ようやく言葉を返したが、返事は来なかった

エリザベスが風呂から上がり、俺が飲むはずだったビールを横取りする

大して飲む気もなかったがいざ自分の物を奪われるとカンに障り喧嘩になってしまった

プラカードで頭を強打されて、もう暫く口は聞くまいと心に決めた

そんな兄弟喧嘩みたいなやり取りを笑ってあしらう女はやはり母親だと思う

子供を連れて旦那は実家に遊びに行っているそうだ


仕方なく別室に敷かれた俺とエリザベスの布団

起きたら今の事は無しだからねと女が諭して明かりを消した


うとうと夢と現実の間を行ったり来たりしていた所に声が聞こえてきた

声の主は女
電話をしているのか


「…………うん、うん……わかった……あなた、早く帰ってきてね……」


主人の帰りを待つ健気な妻、か……
間違った所にお邪魔してしまった様だ
明朝、早速出て行った方がいいだろう

寝ぼけ眼で色々考えていると、すっと襖が開いた
女が寝床に入ろうと俺の隣にやって来る

いや待て

せめてエリザベスの隣で寝るのではないか、普通

ガサガサ布団に入る音が収まって、寝る態勢に入ったのがわかった


「…………明日の朝、出発する」

「……起きてたの?明日って……この様子じゃ、まだ雨止まないわよ?」

「仕方あるまい。天気に合わせていたら、いつ行けるかわからんからな」

「そんなに急ぐ旅なの?うちはまだ旦那は帰って来ないから大丈夫よ?」

「………………旦那が戻って来たらお払い箱という訳か」


急に雨足が強まって、沈黙を埋めてくれた

暗闇の中、横目で女を見てみたが何も見えない
どんな顔をしているのか、見てみたかった


「ちょっ……お払い箱って……ただ旦那が居たら変な誤解されるかなって思っただけよ。何?私が旦那の留守に男連れ込んで遊んでるとでも思ったわけ?」


興奮した女は起き上がった様だった

明かりをつけて自分も同じく起き上がった


「すまん、言葉が過ぎた。しかし主人が居ない時に男を招き入れるのはどうかと思うのは確かだ」

「だったらっ……あの雨の中、放っておいた方がよかったって言うの?今更有難迷惑でしたって言うつもり!?」

「違う、それは感謝している。俺もエリザベスもこうして屋根の下で眠れるのだからな」

「それなら文句はないでしょう!?変な言い掛かりつけないで!」


それを最後に女は俺に背を向けて布団に包まった

煌々と虚しく灯る明かりを消そうと思ったが、すんでの所で思い留まった



「…………主人がどういう人物なのか見てみたいものだな……」

「……………は?」

「家に帰れば食事の準備は出来ている。風呂も沸いているし、上がればビールも冷えている。それにくわえていつも妻が笑顔で迎えてくれて………」

「…………」

「さぞや魅力的な主人なんだろうな」

「……………そんなのどこの家庭も同じでしょ。うちが特別な訳じゃっ……!?」


会話をしながら女の布団に潜り込む

驚いて目を見開いた女は可愛かった


「ちょっ「しー!エリザベスが起きてしまうではないか」

「な、なななんなの?貴方何して…」


動揺する女を尻目に更に身体を近付ける

それが最後
女は肩を強張らせ動かなくなった


「…………一人の男に尽くすそなたに興味が沸いてしまってな……どうにも衝動を抑えられない性分らしい」

「意味がわかんない……こんな事して……私には旦那がっ……」

「大丈夫だ。俺は別にそなたに恋をしているわけではない。それはそちらも同じ事だろう?」

「それはそうだけど……」


それでも俺から視線を外すと口ごもった

明かりも手伝ってか、頬が紅潮している様に見える
そしてどこか瞳は潤んでいた


「俺は知りたいだけだ……そなたの心も身体も……好きなだけ旦那の名前を叫んでくれて構わない。だから………抱かせてくれ――」


邪魔くさい布団を剥いで鎖骨に舌を這わせた

それと俺の長い髪がくすぐったいのか、身をよじって逃れ様とする女


「逃がさない……」


唇を重ねるともう抵抗はしなかった





結野アナの天気予報は残念ながら外れだった
何日ぶりかに顔を出した太陽は、眩し過ぎて目に悪い

歩き出した俺とエリザベスは、あの橋を渡っている

振り返ってもあの女はいない

急遽主人達の帰りが早まり昼には帰ってくるそうだ

結局追い出された形となり、冗談で「旦那と俺とどっちが大事なんだ!?」と言ったら、即答で「旦那!!」と包丁が飛んできて軽く刺さった

昨晩の艶めかしい女はもういなかった

やはり人妻はタフだ
それでいて寂しがり屋で放っておけない

一人笑うと友を見た


「よし……今日は万事屋へ行くとしよう!」

『何か用事ですか?』

「うむ……銀時に人妻の良さを説いてやらねばと思ってな!!」


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