貰い物&捧げ物
□光知る黒〜Another end〜
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今も時々夢に見る
俺が“地獄”に堕ちた夢を
光知る黒〜Another end〜
「…コクトー!」
思わず、体がビクッと反応してしまった。
ぼんやりする頭が皆の騒ぎ声を感知する。…どうやら机に突っ伏して寝ていたらしい。
眠気で若干目の虚ろな彼の前にいるのは橙色の髪の幼なじみ。呆れたような顔をしてコクトーと呼んだ彼を見下ろしていた。
「…今何時間目だっけか?」
「あぁ?もう放課後だっつの。しっかりしやがれ。」
「…放課後…って、ああぁぁ!?ノート取ってねぇっ!!」
すっかり綺麗になった黒板を見、一気に目が覚めたようだ。慌ててコクトーは自分のノートを見た。案の定ミミズが這ったような文字しか書いておらず、書いた本人にさえ読めない。
「今日んとこ次のテストに出るらしいぞ。」
「マジかよ!!?…頼む、後で見せーーーーーー」
「見せねぇからな、自業自得だ。」
一護がばっさり切り捨てると、コクトーはがっくりうなだれた。
だが一護は分かっているのだ、彼の性格を。交友の広い彼のことだ、これくらいなら何とでもなるだろうと。
「でも珍しいな、居眠りなんてさ。」
「や、いつも通り早寝早起きしたんだけどよ」
「嘘付け。深夜二時過ぎに俺にメール寄越した奴が早寝とか言うんじゃねぇ。」
分かってんじゃねぇかよ、とコクトーは一護のツッコミに苦笑を漏らした。
すると前の扉が開き、ひょっこりと少女が頭を出した。
「一護、コクトー!遅いぞ、早く来い!!恋次も石田も待っておるのだぞ!!」
「お、おう。悪いルキア、コクトーの奴寝ててよ。」
「う゛っ、教えなくてもいいだろうが……。」
「何だ珍しいなコクトー。だがしっかりしろ、今日はぼんやりしてる場合じゃないぞ!!」
ルキアと呼ばれた少女は隣のクラスなのだが、遠慮もなく教室に入り込む。そしてコクトーの鞄を引っ張り出し、彼めがけてぞんざいに投げ付けた。
「おわっ、危なっ!!!」
「さっさと準備して来い。電車に間に合わなくなるぞ。」
「お…おー。」
ルキアは言うだけ言うとさっさと教室を出てしまった。文句を言う暇さえなく、コクトーは頭を掻いた。
「…ほれ、行くぞ。」
「一護、」
「あ?」
一護はコクトーを促すと、彼はいつになく真面目な顔をしていた。
「あれから…何年経った?」
「……そんな分かり切ったこと聞くんじゃねぇよ。」
一護は静かに…どこか悲しげに答えた。
「……二年だ。」
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「…久々に来たな。」
「おう。でも変わらねぇな。変わってんのは咲いてる花くらいか?」
彼らの右手に握られているのは花束。
「悪ィな雨竜、毎年花とか手配させてよ。」
「今更言うことかコクトー?」
彼らの左手には数珠などが入っている箱。
辺りは寂しく草木が生い茂り、彼ら以外に人の気配を感じられない。古い寺が近くに見え、一護は思わずクスリと笑った。
「ガキんときよくあの寺に侵入してたよなぁ。」
「あぁ。ーーーーで、コクトーがはしゃいだはずみで仏像ブッ壊してさ。中々罰当たりだった。」
「んなッ!?一護はともかく、恋次まで何でんなこと覚えてんだよ!!」
コクトーはぎょっとして恋次の方を見ると、彼は苦笑した。
「俺達も叱られたからだよ。あんときの和尚のキレっぷりは今思い出しても笑えねぇよ。」
「貴様らそんなことをしてたのか…。昔からたわけだとは思っていたがここまでとは…。」
「いや、分かり切ってることだろう朽木さん。」
そんな彼らにルキアは呆れたように溜息をつき、雨竜は目を逸らしながら眼鏡の位置を直した。
そんな他愛のないことを話しているとある場所に辿り着いた。
「…今日で二年だったな。」
ーーーーーーそこにあったのは、墓石だった。
その側面に刻まれた名前はーーーー
「…久し振り、“紫苑”。」
愛おしそうにその名を呼ぶ男ーーーーーーコクトーの妹の名だった。
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