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□俺も…
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―「サッカー?あんな球遊びの何が楽しいの?」
俺がサッカーが好きか聞いたら、お前はあからさまに嫌そうな顔でそう言った。
でもペンギンについて聞いたら…
―「可愛いよね。しかもあんなに寒い所で必死に子供を守ってる。尊敬しちゃうよ。」
と楽しそうに、ペンギンでさえ余裕で上回る可愛い笑顔でそう言った。
俺はお前のその笑顔に惹かれた。
なあ、苗字。
今ここでその思いを打ち明けてもいいか?
ペンギンばっか見てないで俺を見てよ。
「見て、佐久間!あのペンギン!ちっちゃくて可愛いのに1番泳ぎ方がかっこいいよ!」
「あ、ああ…。そうだな。」
言いたい事を言えないまま曖昧な返事をする。
「あのペンギン…佐久間みたいだね。」
「え?」
突然変な事を言われて反応に困った。
それって遠回しに俺が可愛いと言いたいのか?
でも男は可愛いなんて言われても嬉しくないぞ?
「普段は髪長くて綺麗で、女顔で可愛くて、ペンギン好きで……なのにサッカーしてる時はやたらかっこいい。」
「苗字、俺がサッカーしてるところ見た事あるのか?」
サッカーのこと、あんな球遊びの何が楽しいの?とか言ってたくせに。
俺のサッカーなんか見たって楽しくないんじゃないか?
「試合は全部見に行ってるよ。」
「え?本当か?」
「うん、だってサッカーしてる時の佐久間はかっこいいから。」
「っ!///」
本当に苗字は。
恥ずかしい事をサラリと言ってくれるよな…。
鈍感なんだか、狙ってるんだか…。
「私サッカーのどこがいいのかわからない。でもサッカーしてる時の佐久間は輝いてる。しかも何だかんだで佐久間は優しい。だからね……」
「だから何だよ?」
「うーん……言わない!」
「は?言えよ、気になるだろ。」
すると苗字は下から俺を覗き込んできた。
妖艶な笑みを浮かべて。
まるで美しいけど刺がある薔薇のよう。
「気になる?」
「気になる」
「ホントに?」
「ホントに」
すると苗字はクスリと笑って言った。
「私、佐久間が好き。それだけ。」
世界の時間が止まった気がした。
今、コイツ……
「おーい、次郎君?聞いてる?」
「………それ、俺が思ってる意味でとっていいんだよな?」
苗字は頷いた。
俺は堪らず、苗字に抱きついた。
「佐久間っ!?」
「俺も…」
ああ、考えてみると俺のセリフ苗字に盗られちゃったな。
「俺も苗字名前が好きだ。ペンギンよりもサッカーよりもずっと好きだ。」
俺も…
(できれば俺のセリフは盗らないで欲しいな…)