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□お互いがお互いをお互いに一目惚れ
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〜名前Side〜



ありえない。
本当にありえない。
冬のこの時期、それもクリスマスに合宿ってどういう神経してんの、ウチのサッカー部。
こんなに寒いのに。



「冷たっ」



手がかじかむ。
それもそのはず。
部員何人かの洗濯機だけじゃ綺麗にならないユニフォームを手洗いしてるんだもの。
真冬の北海道で。


吹雪君達が走ってる。
いいなぁ選手は。
動いてるから寒さもヘッチャラなんだ。


私は手元に視線を戻し、ユニフォームを洗うのを再開した。
するとふと手元が暗くなり、私は顔を上げた。



「吹雪君…」


「休憩中だから手伝うよ。」


「ありがとう。でも大丈夫。これはマネージャーの仕事だから。」


「そんな事言わずにさ。僕、一度こういうのやってみたかったんだよね。」


「まぁ…そこまで言うなら…」



私は渋々承諾した。



「じゃあ自分の物は自分でやって貰おうかな。はい。」



私は吹雪君のユニフォームが入った洗面器を吹雪君に渡した。



「洗剤はそこにあるよ。」


「ありがとう。」



吹雪君は私の隣にしゃがんで洗面器に水を張って……



「吹雪君、洗剤入れすぎ!」


「え?」



吹雪君は相当ヤバい量の洗剤をユニフォームにかけていた。
私は洗面器を勝手に取って半分くらい水を捨てて新しく洗面器の8分目くらいまで水を張った。



「はい、これでいいよ。」


「うん。」



吹雪君はユニフォームを手に持って……動かない。



「あー…、こうやるんだよ。」



私は吹雪君に手本を見せた。
すると吹雪君は苦笑した。



「ごめんね、少しでも名前ちゃんの役に立てればと思ったけど、迷惑だったよね?」


「ううん、そんな事ないよ。吹雪君はいつも私が困ってる時に助けてくれる。だから凄い感謝してるよ。」


「本当?」


「うん♪」


「それは良かった。」



吹雪君はふわふわした笑顔を浮かべた。



「そういえばさ、私が転校してきた時、吹雪君だったよね、最初に話し掛けてくれたの。」


「そんな事もあったね。」


「あの時は本当にありがとね。私、不安で一杯で…。だから吹雪君が話し掛けてくれて凄く安心したの。」



それがきっかけで吹雪君に惚れてサッカー部のマネージャーやってるなんて事は言えないけれども。



「名前ちゃんにそう言われると照れるな。」


「吹雪君って照れ屋さんなんだね。」


「違うよ。」



吹雪君の声のトーンが変わった。
私は吹雪君の顔色を伺おうと慌てて顔を上げた。
すると吹雪君は真剣な表情で顔を近付けて、泡だらけの私の手を握った。



「名前ちゃんは鈍感だから言わなきゃわからないよね。」


「何を…?」


「僕が名前ちゃんに最初に話し掛けたり、仕事を手伝ったり、照れたり……全部名前ちゃんが好きだからだよ。」


「え?」


「僕と付き合ってくれないかい?」



吹雪君が……私と、付き合う?
なんて素敵な話なんだろう!
きっとこれは夢だ。
夢に違いない!


そう思って頬っぺたをつねってみたけど、ちゃんと痛かった。
すると吹雪君が私の両頬を引っ張った。



「ちゃんと現実だよ。僕の目を見て。僕は本気で名前ちゃんの事が好きなんだ…。」


「うん…」


「だから付き合ってくれないかな?」


「もちろんだよ。」



私は即答した。
途端に吹雪君の顔が明るくなる。



「やった!じゃあこれからは僕以外の男子と必要以上に絡んじゃダメだよ?それからメールや電話は僕と女の子と家族だけにしてね。」


「うん。」



私が笑顔で答えると吹雪君も笑顔になって、私の唇に一瞬暖かい感触を感じたかと思うと、次の瞬間には吹雪君に抱き締められていた。





お互いがお互いをお互いに一目惚れ
(吹雪君が束縛するなんて意外だなぁ…)





 

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