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□独り言
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  「お前とはもう付き合えない。別れよう。」



名前が彼氏である  いや、もう彼氏ではないが、風丸にそう言われたのはクリスマスイブの昨日の事だった。



「(1人で過ごすクリスマスか…)」



名前は行く宛もなく歩きながら、心の中でそう呟いた。
そして深く溜め息をついた。



「どうして…一郎太……私の何がダメだったの…」



名前はその場に泣き崩れた。
辺りはもう暗い。



「苗字?」



名前にそう声を掛けたのは豪炎寺だった。



「何かあったのか?」


「何かどころじゃないの。一郎太にフラれた。」


「風丸に?アイツお前の事大切にしていたじゃないか。」


「……私もそうだと思ってたのに…。ごめんね、豪炎寺。たくさん協力してもらったのに。」



名前は縋るように豪炎寺の制服の裾を掴んだ。
豪炎寺はその場に屈んで名前の両肩を持った。



「いや、それは大丈夫だが…」



掛ける言葉が見つからなくなって豪炎寺は押し黙った。
名前はというと、豪炎寺の胸におでこを付けてただひたすらに泣いていた。







☆ ☆ ☆







公園のベンチに座って目を擦る名前の頬に、豪炎寺は温かい缶コーヒーを当てた。



「少しは落ち着いたか?」



名前は豪炎寺を見てゆっくり頷いた。
豪炎寺はそれを見て、微笑みを浮かべると、その缶を名前に渡した。
名前はそれを受け取ると、寒さをしのぐように手で包み込んだ。



「……ごめんね、豪炎寺。迷惑掛けちゃって…。」


「気にするな。………別にお前にならどんなに迷惑掛けられても大丈夫だ。」


「え…?」


「……これから言うのは俺の独り言だ。」


「うん…」



名前はよくわからないまま頷いた。



「…好きな女がいたんだ。そいつは至って普通の性格で普通の容姿で、平凡な奴だったんだが、何事にも挫けずに頑張るから、それが可愛くて俺は惚れたんだ。」



そう語る豪炎寺の横顔は妹を思うような、そんな優しい顔だった。



「でもそいつは別の男が好きで、俺に相談してきた。正直ショックだったが、同時に俺を頼ってくれたのが嬉しかった。だから俺はそいつにできるだけ力を貸した。」



名前は何か違和感を覚えた。



「でもそいつは結局別れt」


「待って、豪炎寺。」


「何だ?」


「これって自意識過剰かもしれないけど、もしかしてそれ私?」


「ああ。」



豪炎寺は嬉しそうとも悲しそうとも取れる微笑を浮かべた。
名前はどう反応していいかわからないのと気まずさから俯いた。



「……俺は風丸みたいに苗字を泣かせたりしない。お前に嫌われても愛し続ける。だから俺と付き合ってくれないか?」


「…………ごめん…。今はそんな気分じゃないや……。」


「そうか……」


「でも……」



名前は顔を上げた。
途端に豪炎寺と視線がかち合う。



「ありがとう…」



名前は心の底から笑った。





独り言
(私をこんなに想ってくれる人が傍にいたなんて知らなかった)





 

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