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□イエローカード
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□■名前SIDE■□
今は文化祭の真っ最中。
みんなで焼きそばを大量に作っている。
「イテッ!」
突然耳に入ってきたのは誰かの奇声に近い悲鳴。
どうしたんだろう?
「大丈夫?どうしたの?」
悲鳴がした方を覗くと、そこには指を真っ赤にした緑川君が。
凄く痛そうに顔を歪めている。
赤い液体は指から滴り落ちてキャベツに斑点を付けていき、薄い黄緑が赤を引き立たせていた。
「やっちゃったね。はい、ティッシュ。」
私は近くにあったティッシュを渡した。
「ありがとう。」
「保健室まで送るよ。」
「いや、そこまでは…」
「でも何かあってからじゃ、遅いから。ね?」
「……迷惑掛けちゃってごめん、苗字ちゃん。」
緑川君は申し訳なさそうに俯く。
キャベツを切ってる時に指を切っちゃった事もあって自信を無くしちゃってるのかも。
私はできるだけ柔らかい笑みを浮かべた。
「大丈夫だよ。さ、行こう?」
私は緑川君の指の痛みを紛らわす為に、できるだけ会話しながら歩いた。
途中傷口を洗うために流しに寄った。
私達の模擬店は保健室から離れていて、しかもゆっくり歩いていたから保健室に着くまで10分くらい掛かった。
「失礼します。………あれ?」
保健室の先生がいない。
困ったな…。
「これ、勝手に使っていいよね…。緑川君、そこに座って。」
緑川君は大人しく従ってくれた。
私は消毒液の染みた綿をピンセットで摘まんで緑川君の指先に軽く当てた。
「っ!」
緑川君は痛そうに左顔面を歪める。
でも私に心配掛けないようにできるだけ表情を変えるのを抑えようとしているのは何となくわかった。
緑川君も男の子だし、余り女子に心配されるのは嫌だろうから、私はあえて痛いかどうか聞こうとはしなかった。
…それにしても、
「良かったね。そんなに傷口が深くなくて。」
「うん…。」
歯切れの悪い曖昧な返事が返ってくる。
「その指で包丁持つのは危ないから、今日は受付や呼び込みの仕事やったら?」
「うん、そうするよ。」
私は緑川君の指に絆創膏を巻いた。
「できた。」
「ありがとう、苗字ちゃん。」
すると突然視界が抹茶色で埋まって。
チュッて音と、頬に柔らかくて温かい感触。
一体、何がどうなってるの…?
「ぁの………これ…え?」
「ふふっ、名前可愛い。」
緑川君はイタズラっぽく笑った。
ていうか突然名前呼びなんて反則。
緑川君が大好きなサッカーでいう、イエローカードだよ。
「教室戻ろっか。」
そう言って緑川君は怪我してない方の手で私の手を握り、立ち上がって保健室を出た。
どうしよう…っ。
ドキドキが止まんない。
イエローカード
(これって……自惚れちゃってもいいのかな?)