連載

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授業がもう少しで終わるという頃になって、多串くんが怖い顔して教室に入って来た。

「土方ー、もう授業終わるんだけど。無断でどこ行ってたんですかコノヤロー」

多串くんは無言で自分の席に座って下を向いたまま、顔も上げない。

こりゃあなんかあったな。

…おそらくは晋ちゃんと。

このぶんだと晋ちゃんもこんな状態に違いない。


「俺ちょっと抜けっから、後自習なー。」

「せんせーサボるんですかー?」

「サボりじゃねぇよ。ちょっと散歩。」

「それをサボりって言うんだよ!」


ひらひらと手を振り、教室を出る。

多串くんと晋ちゃんが行くところっていうと…屋上だな。

そう自己完結し屋上へと続く階段を上っていった。

一番上まで上れば、ドアを開けて辺りを見回す。

そして、隅の方にペたりと座り込んでいる人影を見つけると歩み寄った。


「晋ちゃん」

「銀…八…」

潤んだ瞳には何も映していないようだった。

それと少し乱れた服。

ついさっき起こったであろう出来事が想像できた。


「俺、アイツに嫌われた…」

アイツとは多串くんのことだろう。

「どうして?」

「たぶん…俺が嫌なやつだから…。」

晋ちゃんの見当違いな解釈に反論せず、服の乱れを直してやりながら聞く。

「アイツ怒ってたみたいなのに、俺、触られて嬉しいとか、思っちまって…」

黙ったままの俺に晋ちゃんは続ける。

「自分の気持ち抑えきれなくなりそうで…突き飛ばしちまった…俺のこと、もっと嫌いになったよな…」

俺に向かって話しているというよりも自分自身に語りかけているようだった。

その目に俺は映っていないんだ。

映っているのは、いつも…


「土方…」


ああ、また。

そんな苦しそうな顔をして。

多串くんなんかのために、晋ちゃんが傷ついて。

多串くんなんかを好きでいるから、傷つくんだよ。

俺を好きになればいいのに。

俺を好きになれば…

小さく震える晋ちゃんを、しゃがんで抱きしめた。

そっと、でも強く。


ねぇ、晋ちゃん…

そんな顔させる多串くんよりさ、






「俺と付き合わない?」






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