C S

□Crazy Salt
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決して自分に計画性があるとは思っていない。
だからといって無計画と言う訳ではないのだけど、デザイナー程計画的ではないという事だ。
訳の分からない言い訳に聞こえるだろうが、自分はアーティストなのだから。
それに、創作意欲に波がある。
今は企画の案を固めているのだけれど、先日まで自身の内側に溢れていた意欲がどうにも3割程度までになってしまった。
この企画をやりたくないだとか、嫌という訳ではないのだけれど、現段階ではどうしてもベストなものに思えない。
何かは分からないけど、何か足りない。
その分からない何かが非常にもどかしくて、これさえ分かれば前に進めるのにという思いが余計に足止めをしてくれる。
重い腰を上げるのはいつだって難しい事だ。
出来ることなら柔らかくって暖かなベッドに沈み込んでしまいたいと思うけれど、それでも立ち上げるのは、それだけ自分が「創る」という事が好きな証。
きっとこの先一生そうだろう、この世のものでは比較出来ない位に、創ることが何よりも好きだ。
本当に、心底好きで好きで、病的なまでに好きで堪らない。
深く息を吐きながら、アーティは自分の想いを再確認して、飛翔しかけた意識共々またソファに沈む。
外は雨だ、自由に飛び回る発想を地面に叩き付けるような雨。
彼は雨自体が特別嫌いという訳ではないが、今ばかりは気分が滅入って仕方がないと、現実から目を背けるように、カーテンを閉めた。
電気を点けていない部屋は薄暗く、暖房器具を点けていない部屋は薄ら寒い。
まるで自虐行為、いや、それそのものであり、アーティは嗤笑しながら再び寝転んだソファで寝返りを打つ。
こうしていたって自体が好転する訳ではないのだけれど、本当に今は動けない。
いい大人になって、ジムリーダーという立場にもありながらこんなことでは情けないと思えば思うほどに、ポジティブな思いが雨と共に、大都会のマンホールに吸い込まれていった。
今は取り敢えずこのまま寝よう、一度寝てしまえば少しは気分が落ち着くかもしれないから。
そう彼は半ば祈るようにして、瞳を閉じる。
しかし、だからといってすぐ眠りに落ちる訳ではなく、寧ろ負の感情で興奮してしまっている神経では微睡みさえ訪れない。
余計に苛立ちを覚えて、彼が起き上がると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。


「アーティさん、今よろしいですか?」

「うん。」


ドアが開いて光の筋が暗い部屋に差し込んだと共に、姿を現したのは彼の助手。
助手といえど、芸大生をアルバイト助手として雇っている、まだ若干20歳の若い女性。
女性とも言えるのか、たまに見せる世間知らずさと無邪気さにはまだ少女が見え隠れする。
そんな彼女は手にしていた買い物袋を机に置いて、アーティを心配そうに覗き込む。


「大丈夫ですか?」

「ぬうん…あんまり大丈夫じゃないかも。あ、お使いご苦労様でした。」

「いえいえ。それより、ご気分が優れないのでしたら、何か暖かいお飲み物でもご用意致しましょうか?」

「そうだね、お願いしようかなあ。」


暖まって、気持ちを落ち着ければ少しはどうにかなるのかもしれないし、とアーティが思っていると、不意に彼のお腹の虫が鳴く。
よくよく考えてみれば、朝にトーストを囓っただけで、他に何も食べていない気がする。


「簡単なものでもよろしければ、軽食もご用意しましょうか?」

「あうう、よろしく頼むよ。」


わかりました、と助手は少し笑いながらキッチンへと向かう。
彼女はなかなかに有能な助手だ、アーティをこういった生活面までサポートしてくれる。
それに、彼女の料理は美味しいのだ、優しい家庭の味がする。
長い間一人暮らしをしていて、何かあればすぐに食を抜かしてしまう彼には、彼女の作った温かな家庭料理が身に染み入る。
今から1ヶ月前、何となく雇い始めた助手だったが、これはとても正しい選択だったと言わざるを得ないだろう。
お使いで買ってきてもらった物を取り出して整理しながらアーティは少し心が軽くなるのを感じた。
今まで助手なんていうものを雇ったことは無く、こういう風に行き詰まったときも、自分の愛する虫ポケモン達に励まされながら一人でやってきた。
一人でだって出来ない事は無い、ポケモン達もいる、けれど、こうして一人支えてくれる人がいるだけで、こんなにも違う。
いつの間にかモンスターボールから出てきて、よかったねと言わんばかりにアーティを見上げてくるハハコモリ。
そうだね、と言葉無く返すように、彼はパートナーの頭を撫でて微笑んだ。
そうこうしている間に、食事の用意が調ったのだろう、助手がノックと共にドアから顔だけ覗かせてごはんですよ、と告げてくれる。




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