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「スイマセン…けど…負けません」
「ボクも負けないです」
 本当は自信なんてない。…だって、手に入らないものだと思ったから。 
 黒子君の言う、優しさも、あの面倒見の良さも、…絶対の信頼も。チームメイトだけのものだ。
 だから、告げることはないと思ったし、周りに感付かれようが隠すつもりだったし、…そもそも機会なんてないと思った。 
 なのに−
 
 
 気付くと、日向さんが手を止めていた。
「…日向さん?」
 と、こちらにボールを軽く投げてよこした。
「っと、」
 すこし、あわてて受け取る。ああ、続ける気はないんだな。と判断して、僕はボールを傍 らに置く。
「あーもう、こんなんだからヘタレだって言われるんだよ!」 
 クラッチが入ったのかと思ったが、どうやら自分に言っているらしい。 
「1on1はただの口実で!俺は」 
 意を決したように僕を見る。試合で見せるのと同じ、真摯でまっすぐな眼差し。
 視線を合わせたまま、数秒、間があった。と、小さく息を吐いて口を開く。
「…嫌だと思ったら逃げろ」
「…?」
 なにを言うつもりなのだろう。僕は不安と…期待が入り混じった。 
「これは俺のわがままで情けなさで自己満足だから」
 まくしたてるような口調だった。
「お前が俺のことを見てないのはわかってるつもりだ」 
(この人はニブいんじゃないかとは思ってたけど、これはけっこうショックだな。)  
「わかってるのに、俺はお前を」 
「…え?」 
「好きになっちまった」
 好きだ と言われた。
 心臓がうるさい。うるさくて、…高鳴って、嬉しくて。
「ごめんな」
 でも、日向さんは答えさせてくれない。
「ずるいです」 
 言葉が出た 。視線は外さない。
「そんなの…ずるい」
 自分でも驚くほど、強い口調だった。
(だって、僕は)
「言い逃げなんて」
 一瞬、日向さんの瞳が揺らいだのを見た気がした。
「…そっか、そうだよな」
 またまっすぐに僕を見る。瞳にあるのは覚悟だった。答えはわかりきっているというような。 
「僕はっ」  
 なんだか悔しくて、言ってやった。言ってしまった。
「あなたが好きです」
「は?」 
「スイマセンけどっ、あなたと同じ意味であなたが好きなんです!」
 日向さんは信じられない様子で、視線を彷徨わせた。本当に言い逃げるつもりだったらしい。
「ダアホ!流されんな!」
 今度は半分(?)クラッチが入っている。
「流されてこんなこと言わない です!」僕は気圧されないよう、思いっきり言ったはずだった。
 …でも、言葉は最後まで紡げない。その一瞬に、起きたことを理解できなかったから。
(ん?…んん!?)  
 体温を間近に感じる。おそらく、日向さんの。
「こういうことなんだぞ?」 
「日向さ、!?」
 …抱きしめられている。やっとわかって僕は身じろぎした。嫌ではないけど、条件反射みたいなものだ。
 完全にクラッチが入っている。日向さんは腕の力を強め、唇が触れるんじゃないかと思うくらいにお互いの顔が近づいた。
 でも、感触はなくて。
 日向さんはどこか、かなしげに見えた。…この人は優しいのだと思った。(でもヘタレだ)
 ゆっくりと、身体が離される。
 温もりも消える。…そ の前に、僕は日向さんの服の裾をつかんだ。
「嫌じゃないです…むしろ嬉しい…です」 
「…本気なの…か?」
「さっきからそうですよ!」 
 これでも、日向さんはまだ信じきれないようで。僕は焦れったくなって、軽く抱きついてしまった。
「本当にいいんだな?」
 先ほどとは違い、優しく抱きしめてくれる。
 お互い火照ったように顔が赤くなっていた。
 
 
「だから、スイマセンけど、今度はちゃんとキスしてくださいね!」 
「おまっ…」
 日向さんはやっぱり、戸惑ったような、困ったような顔をして笑った。




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