緋色小説1

□第一回玉依会議
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それは本当何気ない一言で でも珍しいなんて思うと不安で


僕らは君の事が大好きなんです。



                    
第一回玉依会議






「お帰りなさいませ。珠紀様。鬼崎様。」


珠紀宅。宇賀谷家では、いつも通り美鶴が出迎える。


代々玉依姫に仕えてきた言蔵家なので当たり前といえば当たり前なのだが


美鶴にいたっては純粋に珠紀を尊敬し、使えているような部分もあった。


見本のような丁寧なお辞儀をした後、拓磨の方に視線を向け美鶴が目を丸くする。



「あ・あのっ珠紀様は…っ!」


「あー…それがよー…」


口角を不自然に吊り上げながら拓磨が重い口を開き始める。







最近はみんな(主に珠紀と拓磨と真弘)の成績が悪くなっているとのことで


珠紀の祖母にして先代玉依姫である宇賀谷静紀より勉強会が義務付けられた。


参加者は先生として他の守護者も集まり…まぁ結局はいつものメンバーなのだが…。


そして今日もその勉強会があり、拓磨がいつものよう一緒に帰ろうと珠紀に視線を向けると「先に帰ってて!」と一言残し走り去ってしまった。


拓磨はそれでも校門前で数十分待っていたのだが珠紀が来る気配はなかったので先に帰ったとのことだった。



「何だぁ?珠紀のやつサボリか!?」


ずっりぃー!俺もサボリてーっ!!と真弘が立ち上がったのを祐一が無言、そして片手で座らせる。


「いや。何だかんだ言って珠紀さんが一番やる気ありましたし、その線は低いでしょう」


そう卓が言ったあと「君とは違ってね」というように目を光らせ真弘を見ると


真弘は今まで見たことのない姿勢の良さで呪われたように勉強を始めた。


「そんなに急ぎの用件だったんですかね…?」


口元に手を当てて考える慎司の傍では美鶴がオロオロしていた。


「拓磨がもう少し待っててやればよかったんじゃないか?」


お茶をすすりながら祐一が口を開く。


「えっ俺っすか!?」


拓磨はこれでも一時間近く…いやもしかしたら一時間以上も待ってたのだ。


それで怒られるのか!?と反論をしかけた。


でも近くにいた女の子がそれを遮る。


「そ・そんなこと…っ!」


美鶴はそこまで言って口を紡ぐ。


美鶴のなかでは他の守護者と違って拓磨は特別で。


それはかけがえのないくらい大切で。


それと同時に珠紀も大切だった。


今美鶴の頭の中では拓磨と珠紀が天秤にかけられていた。


みんなは黙ってその様子見守る。


「や・やっぱり鬼崎さんは待ってあげるべきでした!」


「えぇ!?」


てっきり自分の味方をしてくれると思っていた拓磨が驚く。


「フラレたな」


「拓磨のやつ珠紀にさえも負けたか」


隅のほうで祐一と真弘がまるで主婦の井戸端会議のように話始めた。


「ちょっうるさいっすよ!真弘先輩!」


拓磨が多少怒号をつけて言うと真弘が不満だったのかそれにつっかかる。


「たぁくまぁぁぁぁっ!何っで俺だけなんだよ!祐一だって言ってただろうがっ!」


ばんっと机を叩いて立ち上がると拓磨を睨みつける。


「俺と真弘では苛立つ度合いが違うのだろう」



日常茶飯事というようにお茶に手を伸ばす祐一に真弘の目が向けられる。


「何だよその苛立つ度合いってぇのは!そーなのかっ!?拓磨!!」


そしてまた怒りの矛先は拓磨に向けられる。


「は・はぁ!?何言って…」


「歯ぁくいしばれぇぇぇぇぇっ!!」


無駄に真弘が守護者の力を使い風の超スピードで拓磨に突っ込む。


こぶしが拓磨に触れる寸前 一同が美鶴の一言によって固まった。





「珠紀様…もしや告白など……」



美鶴が不安げに口元に手を添える。


みんな時間が止められてるかのように固まり、長い沈黙が流れた。





「えー…ちょっと家に勉強の参考になりそうな書を取りに行ってきます」


いつもの笑顔でそう言って立ち上がった卓をみんな呆然と見ていたが、慎司だけが止めに入る。


「ずっずるいですよ!大蛇さん!珠紀先輩探しに行くつもりでしょ!」


すっと立ち上がって手をかすかに震えさせながら叫んだ。



「俺ちょっくら焼きそばパン買ってくるわ」


「あ・じゃあ俺もたい焼き買ってきます」


そんな2人を横目に負けじと真弘と拓磨も立ち上がる。



「ばっ俺がたい焼きも買ってきてやっからオマエはここにいろよ!」


「なら逆に俺が焼きそばパンも買ってくるんで先輩はここに」


だんだん声を荒げ始める。卓と慎司は冷戦を続けていた。


そこで真弘があることに気づく。



「…なんか…祐一静かじゃねぇ?」


その言葉を聞いてみんな一斉に祐一を見る。

でも特に変わったことはない。


だが卓だけは祐一を見るやいなや「しまった!」とつぶやいて走り出す。


それでみんなもはっと気づいたように走り出した。


祐一はみんなが言い争いをしている間にこの部屋に幻術をはって自分の姿を消し幻の自分を作りこの部屋から抜け出していた。




「祐一のヤロっ!俺にまで黙って行きやがって!」


「狐邑君ーっ何も言わずに出て行くのはよろしいとは言えませんね!」


玄関でもう戸に手をかけようとしている祐一にみんなが全力で走って向かう。


思ったよりバレるのが早かった。というように祐一は軽く舌打ちした。



「だからもう俺が行きますって!」


拓磨が叫ぶがもう誰も聞く耳をもたない。


「もし危ない敵がいたらどうするんです!ここは一番年長者である私がっ!」


「いやいやいや!敵っつってもこの鴉取真弘様の手にかかりゃあ一撃だろ!」


「ここは俺の幻術を利用して穏便に済ませるべきだ」


「僕の力は応用が利きますし僕が行きます!!」


我先に!と誰もが手を伸ばすと 不意に戸が開いた。




「ただいまー!…ってあれ?みんなどうしたの?」


突然帰ってきた珠紀と隣にいる人を見て一同唖然とする。


隣にいたのはまだ小柄で幼い 男どころか女の子だった。


「「アリア(様)…!?」」


口をそろえて呆ける。というより呆けるしかなかった。


「今日からアリアここに住むよー!実はひそかに計画を…」


もう守護者は珠紀の話なんか聞かず次々口を開く。


「だから…俺は最初っからこんなことだろうと思ってましたよ」


「だよなっ!なんたってコイツ色気ねーもん!」


「…確かに…色気は微塵も感じられないな……」


「教養があるわけでもありませんしね…」


「僕もご飯あんなに食べる女の人はじめてみましたし…」


だんだんみんなケラケラと笑いながら珠紀の暴言を吐き始める。


気が抜けた というのが事実なのだろうが珠紀はそんなこと知りもしない。


だんだん黒いオーラをまとっていく。




「何で帰ってそうそうこんなコト言われなきゃいけないの……?」


その黒いオーラに美鶴が敏感に反応し珠紀の元へかけよった。


「ごっご無事で何よりでした!!私もう心配して…っ!」


「ありがとう美鶴ちゃん」


美鶴の頭をそっとなでた後 もう限界というように珠紀が口を開く。


「今日はアリアと美鶴ちゃんと3人で過ごすのでみんなもう帰っていいですよ?」


それは恐ろしい程の笑顔で…というより本当に恐ろしいのだが


守護者は微塵もそれに気づけていない。


「いや。まだ勉強終わってねーし」


「オマエに付き合ってやるよっ!」


拓磨と真弘がにっこり笑うのを眺めながらもう一度口を開く。


「あれ…日本語間違えたかな…?」


1度うつむいてそれからゆっくりと顔をあげる。


その顔にもう笑みなんてなくて…




「消えて」



その言葉を聞いて逃げる他なかった。


それ以来 珠紀をからかうのはほどほどにしようと心に誓った5人だった。





                                                 fin

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