緋色小説1

□バーカ
1ページ/1ページ






自分が誰かから好かれてるなんて全然考えてなくて、鈍感だし向こう見ず。

でもそんなオマエだから好きになった。


バーカ



「ちょっ拓磨!置いていったでしょ!」

珠紀が走って拓磨を追いかける。

放課後。夕暮れ時。

何やら珠紀は家庭の居残りだとかでまだ学校にいた。

拓磨も傍で見ながら待っていたのだがそこで珠紀が一言。


『邪魔…』


拓磨も仮にも好きな女に邪魔なんて言われて気分がいいわけない。

そこからふぃっと向きを変え玄関へ向かってしまった。

でも待っていたのは自分自身が一緒に帰りたかったというのもある。

考えに考えた挙句 しばらく町で時間を潰してからゆっくり歩きだすことにした。

そして今追いついてきたのが珠紀。


「オマエが邪魔っつったんだろうが」

「えっだって邪魔でしょっ?」

はぁはぁと息を切らせながら珠紀が悪びれもせず言う。



男として意識されてないのか、はたまた好かれる筈などないと思っているのか。

まぁどちらにしても拓磨自身がまいた種だった。

最初から遠まわしにでも馬鹿にして女を否定してきたのだから

嫌われていても仕方がないくらいだろう。

真弘程直接的に言ってはいないが まぁ良いように思われてないのは確かだ。


「もうっ速いよ!今まで走ってきたんだから!」

言われて自分の歩く速度が速かったことに気づいた。

「あ…悪い」

嫌われていても仕方がないのにこうして一緒にいてくれるのは珠紀の優しさだろうが

拓磨にとってそれは時に苦痛でしかなく……




好きになったのは必然?

誰も好きになるつもりなんてなかったのに気づけば目で追っていて

誰かと話せば胸が痛む。

自分でも都合がいいと思う。

さんざん女じゃないなんてからかってきたのに

今自分が珠紀を誰よりも女として意識しているなんて。



「どうしたの…?拓磨」

ひょいと珠紀が顔をのぞきこむ。

「おわっオマエ!何するんだよ!」

不意に近くなった顔に反応して自然と拓磨の顔も赤くなる。

「何って…様子が変だったから…」

天然の塊みたいな少女は不安げに拓磨を見つめる。

その眼差しが痛くて。でも嬉しくて。


「ったく…鈍感!!」

とりあえず目をそらして吐き捨てるように言った。

「ひょっとして邪魔っていったの怒ってる?」

おそるおそる珠紀が拓磨を見ながら問いかけた。

何を言っても墓穴を掘りそうな気がして拓磨は口をとじる。



「だって…誰だって男の人にあんな傍で見られてたら…恥ずかしいじゃん…」

今度は珠紀が少し顔を赤らめながらつぶやいた。

「な…」

「拓磨モテるし…人気なんだから…。気をつけないと好きな子に勘違いされるよ…?」

ちょっと悲しそうに切なそうに笑うその笑顔は

いつもの様子からは想像もできないほど大人びて美しい。


「バーカ」

思わず口角があがる。

「バカって!わ・私は拓磨のことを思って…!」

「好きだ」

空気が 時間が止まったような気がした。


「オマエが好きだっつってんだよ」




                                       fin

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ