緋色小説1

□冬、一歩手前
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冬が来たね。

君の体温が 手の温度が 心地よくて仕方ない。


冬、一歩手前



「寒いっ!!」

「そりゃー冬だからな」

ぶっきらぼうに拓磨が答える。

雪こそ降っていないもののもう冬。

田舎なこの村では防寒装備をしていないと寒くていられない。

木枯らしが吹きぬける校舎での授業をようやく終え

2人はいつものように一緒に帰っていた。

「拓磨は寒くないの?」

「………まぁ」

こんな時まで男らしいとか気にしなくていいのに

拓磨は珠紀といるときでさえ 少し気を使っていた。

むしろ珠紀といるからこそ。



「寒いうえにお腹まで空いた……っ」

最近寒くなってきたせいで今日は屋上で昼食をとれなかった。

どこで食べようかなんて場所を探し回ってるうちに食べる時間が減ってしまったのだ。

拓磨や真弘達は何と言っても男なのでかきこんで食べることができたが

珠紀はまがりなりにも女なので半分以上残してしまった。

そして結局お弁当はそのまま…。

授業の合間や放課後になんて食べることはできず空腹のまま今にいたる。


「だからかきこんで食えばよかったんだろーが」

「だって仮にも女だよ!?私っ!」

仮にも が言ってて自分自身悲しくなる珠紀。

お互いの憎まれ口はいつものこと。

「まぁ仮にもそうだな」

「そこつつかないでよ…」

そんなことを言いながら少し笑った。


寒い寒いと珠紀が言うからいつもより少し近くで2人は歩いた。

お互いの体温を感じるほどの距離か

はたまた冬の寒さか

2人の頬を赤く染める。



「あっ肉まん食べたいっ!」

歩いていた珠紀がお店を発見して走って駆け寄る。

「肉まんかよ…色気ねーな」

そう拓磨が呟くと走っていった珠紀がギロっと拓磨を睨みつけた。



店のおばあちゃんといくつか会話をしたあと

満面の笑みで珠紀が走って戻ってくる。

「はい。半分!」

嬉しそうに熱々の肉まんを半分に割って拓磨に手渡す。

「は…?オ・オマエが食べろよ…」

きょとんとした顔で拓磨が言うと珠紀はしれっと言う。

「食べるよ。けど半分拓磨にも食べてほしいの!」

受け取らない拓磨に珠紀が肉まんをぐいっとおしつける。

それでも拓磨がしぶるとしびれを切らしたように珠紀が返す。

「寒いんでしょ?私の前で気なんて使わないでよ…」

そう言うと珠紀の手から肉まんを受け取る。

「は・半分受け取るけど…オマエも半分渡せ…」

さっきよりもう少し顔をあからめそっぽを向きながら拓磨が言った。

必死の拓磨の声をよそに珠紀は頭の上に?マークをいくつか並べている。

「だーっ!!ほら!手かせ!」

真っ赤な顔をしながら珠紀の手を少し乱暴に握った。

「え…」

「……」

少し気まずそうに2人が顔を赤らめる。

冷え切って感覚がなくなりそうだった手から温もりが伝わる。

むき出しだった手がどんどんと熱くなった。

「あ…あったかい…ね…」

「……おぅ…」

冬、一歩手前。

握った手はあったかいを超えて 少し熱く…。



                                       fin

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