緋色小説1

□初感
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こんなに誰かの傍に居たいと思ったのなんて初めてだよ。

オマエが俺にそうさせてくれたんだ。


初感



「拓磨っごめんね!帰ってていいよ?」

「…いや。待ってる」

珠紀が申し訳なさそうに拓磨を見上げる。

でも拓磨の顔は有無も言わせぬような優しい顔をしていた。

「じゃ・じゃあ急いで終わらせるね!」

珠紀は今日日直だった。

それが理由で先生に雑用を押し付けられた。

ようやく雑用を終えたかと思うと日直の日誌を書くのを忘れていたことに気づいたのだった。



「別に急いで終わらせなくてもいーぞ?」

「でもわ・悪いし…」

もう一度申し訳なさそうな顔をして拓磨を見た。

でも拓磨はこんな風に流れる時間が嫌いじゃない。

むしろゆっくりで平和で居心地がよく気に入っていた。

夕暮れの教室。

茜色に染まるこの空間には珠紀と拓磨の二人だけ。

かりかりとシャーペンの音だけが響いた。




傍に居たいと思ったのも、護りたいと思ったのも全部コイツが初めてで。

我ながら惚れてるんだな。なんて思うと自然と顔が紅潮する。

宿命に囚われて人を遠ざけてきた俺だから…

「全部…オマエのおかげだな」

「…へ?」

珠紀はきょとんとしたまま固まっていた。

その様子を見て拓磨が吹き出す。

「えっ何で笑うの!?」

珠紀はなんとなく自分が笑われているということはわかったようで顔を赤らめた。

「だっ…その顔……っ!」

すべてが愛おしいと思う。

抱きしめて離したくないくらい大切で。

それは初めての感情。

でもこれからもずっと続いていくだろう想い。


「ありがとな。俺の目の前に現れてくれて」

自然に口元は緩んでいたと思う。

そういうと珠紀は一瞬驚いて

何も言わずにっこりと笑った。



そうだ。この笑顔が見たいんだ。


座ったままの珠紀をぎゅっと抱きしめる。

「ずっと傍にいてくれ…」

そう小さく小さく呟いた。

でも彼女にはちゃんと届いていて。

「そっちこそ…」



茜色の教室。重なったシルエット一つ。

誰よりも何よりも近いこの場所でこれからもずっと君を見ていこうと思う。




                                           fin

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