緋色小説1

□温もり
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私にはわからない人。でもなんとなくわかるの。



貴方の隣りにいることで 貴方を癒すことができるなら。





温もり






いつだってそう。少しだけ冷えたような手の温度。



それはきっとこの人がたくさん眠る人だから。







「祐一先輩どうしたんですか?」



お昼ご飯を食べようと屋上までやってきたのに



祐一はお弁当を出そうともせず ただぎゅっと珠紀を抱きしめる。



他のメンバーはその空気に耐えれなくなったのか 気遣ってか



慎司を筆頭に教室へ移動してしまった。



「祐一先輩?」



「………」



さっきから何度名前を呼びかけても問いかけてもこの通り。



返事も応答もなく ただ腰に回した手にぎゅっと力をこめるだけ。



まるで甘えた子供のようで 少し愛おしく思う。



「ご飯食べれなくなっちゃいますよ?」



「……」



何せぎゅっと抱きしめられているもんだから時間すら見えない。



あれからもう10分は軽くたっているだろうか。





「先輩…お弁当食べないと教室戻れなくなっちゃいますよ?」



「…戻らなくていい……」



久しぶりに聞こえたような祐一先輩の声。



少し寂しげで 悲しげで。



「オマエは…俺だけの傍にいればいい……」



真っ暗な部屋。置き去りの子供。



静かな空気。冷えきった温度。



「先…輩…」



祐一はそれだけ言うと またぎゅっと珠紀を抱きしめていた。



「………」



温もりを求めてる。多分私の。



何かあったのか?それとも単なる気まぐれ?



「何かあったんですか?」



「何もない…」



冷たい過去を持っている人だから 人一倍温もりを求める。



「ただ……」



「ただ…?」



「…俺もオマエと同じクラスがよかった……」



それはちょっとした拓磨へのやきもちだろうか。



「私も祐一先輩と一緒に授業受けたかったです」



そして勉強を教えてください! なんて言って笑った。



退屈なんですよね。



自意識過剰かもしれないけど 何もない教室が。



だから寝てばっかりいるんですよね。





「午後から授業サボりましょうか!」



「…珠紀…?」



手を緩めた祐一先輩が少し驚いた表情でこっちを見る。



「デート行っちゃいましょうよ!学校抜け出して!」



祐一先輩の少し冷えた手を握る。



「いいのか?」



「私だって祐一先輩と一緒に居たいんです!今日だけ特別!」



そう言うと祐一先輩の顔がかすかに緩んだ。



あっ笑ったのか。なんて思う。



私が笑わせたのかな。なんて思うとちょっと嬉しくなる。



「じゃ祐一先輩!昼休みの間に急ぎましょう!」



「あぁ」



わかりづらい人。だからこそわかりやすい人。



手の温もりは少し熱いくらいがちょうどいい。













                                                fin

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