緋色小説1

□ふたりぼっち
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ずっと辛かったのですね。 ずっと苦しかったのですね。

全部一人で溜め込んでたんですね――…


ふたりぼっち



「祐一先輩がいなくなった!?」

「あぁ…まぁいつもの通りふらっと出てふらっと帰ってくるだろ」

拓磨は日常茶飯事とでも言うように口を開いて

でも私は予想外の言葉に驚く。

「そ・そんな……よくあることなの?」

「さぁ…祐一先輩は俺らにもつかみどころがないからな…」

そこまで心配すんなよ。とだけ残して拓磨はどこかへ行ってしまう。


夜になっても祐一先輩は帰ってこなくて…

何だかすごく嫌な予感がして…

今すぐに…祐一先輩の傍に行かなきゃ行けないような気がした。

「祐一先輩……」

今貴方はどこにいますか?

何を思っているのですか?

辛い思いをしてるのではないですか?

独りで苦しんでいるのではないですか?

「珠紀……?」

聞き慣れた声に振り向くとそこには…

「祐一先輩!」

急いで祐一先輩の元へ駆け寄る。

そして手をぎゅっと握り締めた。

「どこ言ってたんですか!」

祐一先輩は何も言わず弱々しく笑う。

「大丈夫…ですか…?」

それでも祐一先輩は何も言わなくて

やっぱり独りで溜め込んでるんだと思う。

辛い子供時代があったから、独りでいることに慣れてしまってて

誰にも打ち明けることなく苦しみを背負ってきた。

「独りには…もう慣れないでください…っ」

涙が零れ落ちる。

貴方の喜びは私の喜び。

貴方の悲しみは私の悲しみなんです。

貴方の苦しみは私の苦しみなんです。

「世界を…見限らないで…これからです……素敵なことに出逢うのは…」

微かに震えているように見える祐一先輩を抱きしめる。

どうか気づいて 独りじゃないってこと。

あの時よりも生きることはもっともっと簡単だってこと。

人と交わるのは難しくて でもとても楽だってこと。

「温かいんだな…オマエは…」

いつものように柔らかく祐一先輩が笑う。

「人がこんなに温かいこと…久しぶりに思い出した気がする…」

そう言うと祐一先輩も抱きしめかえしてくれた。

「そうですよ…あったかいんです」

この温もりを忘れないで。

辛くなったら思い出して。

「祐一先輩も…ですよ?」

「そうか」

暗闇のなかふたりぼっち。

少し冷える夜風に当たりながらお互いの温もりを感じる。

独りじゃ生きられない私達を笑うでしょうか?

弱いと蔑みますか?

それでもいいです。それでもいいんです。

それでもただ必死で生きていたい。

弱いことを慰めあってでも、それでも世の中捨てたもんじゃないって…

「先輩…帰りましょう」

「…そうだな」

世の中 ふたりだけでもいい。

独りじゃないならそれでいい。





                                fin

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