緋色小説1

□空と貴方と乙女心
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ねぇ。空がとても綺麗だよ。


貴方も見てたりするのかな?




空と貴方と乙女心





とりあえず貴方とつながっていたかった。


空を見てればつながれるような気がした。


ただそれだけだった。





空を眺めて夜風に打たれては、グラスに注いだ水を口に運ぶ。


軽いため息をついて星が見えない空を見上げた。





いつか貴方と見た空は星がとても綺麗で、


他愛のない話を1日中でもしてられそうで。


あの時みたいに2人だけで時を過ごすことはできないの?








「珠紀?…オマエ何してるんだ」





聞こえたのは真弘先輩の声。





「先輩…」





「風邪ひくぞ。さっさと家入れ」





口は悪いけど優しくて。


ねぇ。その優しさは私には痛いよ。





「先輩こそ…どうしたんですか?」


泣きたくなる衝動を押さえて笑った。





来た理由。ホントは少し予想ついてる。





「あー…。まっオマエには関係ねぇよ」


気まずそうに頭をがしがしとした。





そうですよね。


私には関係ないですよね。


見ちゃったんです。


美鶴ちゃんと楽しげに歩いているところを。





「そうですか」


力なく口を三日月にする。


その変化に真弘先輩が敏感に反応した。





「どうした?オマエ何か今日変だぞ?」





そんなことないです。と呟いて笑う。





空を見ると思い出すんです。


貴方と出会った時の空。


青空が一面広がっていて、


雲の動きは穏やかで。


空を見ると思い出すんです。


いつも笑顔な貴方のこと。


果てしなく青く澄んでいて、


広大でいて爽やかで。





何も気づいてなかった頃の空は、


とてもとても愛しくて。


恋心が募るだけだったのに。


気づいてしまったら虚しいもので。


空を見上げて生まれるものは、


小さなため息と切なさだけ。





「やっぱりオマエ変だぞ?」


頭をぽんぽんと撫でられた。


真弘先輩の気遣いとは裏腹に、


私の心は締め付けられる。


「何にもないですよ。それより…」





何も知らず優しくされるくらいなら…





「美鶴ちゃんと仲良くやって下さいね」





前は見れなかった。


でも必死で笑った。





「あ…あぁ…って急にどうしたんだよ」





さっさとくっついて忘れさせて欲しい。


目の前で見せつけてくれればいい。





「結婚式には呼んでくださいね!これでも一応玉依姫なんですから!」





やけだった。


最高の作り笑顔を作って前を見た。





「は…?」


真弘先輩はただ目を見開いて立ち尽くしている。





「何言ってんだ?」





「隠さなくていいですよ。見ちゃったんです。この前2人がデートしてるとこ」





何でか真弘先輩の瞳には微かな怒りと悲しみが映っていた。





「だから幸せにー…」





言い切る前に手を差し出される。


その手には小さな袋があった。





「これ何ですか?」


訊いてみるとすぐに真弘先輩が答える。





「いいから開けろ」





とりあえず小さな袋を丁寧に開いた。





「これ…」


取り出されたのは小さな小さなネックレス。





「オ・オマエへのプレゼント買いに付き合ってもらってたんだよっ!」


少し顔を赤らめて言う真弘先輩。





「た・誕生日だろっ!オマエ…」





我ながらげんきんだと思う。


貴方のことで勝手に拗ねて、


貴方の一言でこんなにも喜んでしまう。





涙がこらえきれず溢れた。





真弘先輩は何も言わず微笑む。





「綺麗な空だよなー」


いとおしそうに空を眺めた。





「何となくオマエも見てる気がしたんだよ」





底抜けに明るい笑顔。





空のような貴方。


空を見る度に思い出す。





                         fin

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