緋色小説1

□君に愛されるそのために
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君に愛されるその為に。


俺ができること。俺の誇り。




君に愛されるその為に





「拓磨!帰ろう?」



授業が終わったと同時にかけよってきた。


俺は彼女が愛しくて仕方ない。



「お・おぅ」





愛しいと思うからこそ、不安になる。


彼女を好きな奴は他にもたくさん居て、


いつか俺を選んだことを後悔するんじゃないかって。





帰り道。夕暮れが美しくなる頃。


不意に握られた手。


驚いて彼女を見るとにっこりと微笑んだ。





自然と口が笑ってしまう。


でも同時に虚しくなった。


普通はこういうこと俺からしなくちゃいけない筈なのに…なんて、


思うのは今さらだけど。


ただ彼女に愛されたいと願う。





「珠紀…悪い…」





気づかないうちに足は止まり口からこぼれていた。





「…?…どうしたの?」





不思議そうに珠紀は首を傾げる。





「何でもない」と言う他なかった。





珠紀は「まぁいいか」という表情でまた歩き出す。





いつか不満がたまるんじゃないだろうか?


祐一先輩とか慎司とか、


女子にモテる奴はいっぱいいて…


女の扱いなんて慣れてないし、


愛される意味もわからない。


自分が女だったら決して自分みたいな女は選ばない筈だ。








「オマエは…俺のどこがよかったんだろうな…?」





自然と紡いでいた言葉は自分が一番知りたかった言葉。


でも頑なに答えが出ることを拒んだ言葉。





女々しいなんてわかってる。


それでも彼女が好きなんだから仕方ない。





「どこって…」





珠紀が困った顔をした瞬間背筋が凍った。


でも聞こえた言葉はあまりに温かい言葉。





「全部だよ。拓磨だからいいの」





そう言って笑う彼女はとても美しく、見とれるなんてものじゃなかった。


彼女は俺の全てなのだと本気で思った。









君の為ならこの命、使うことすら誇りになる。










                             fin

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