緋色小説1

□我が儘
1ページ/1ページ






最期まで強い君でした。最期まで笑顔な君でした。


そんな君がどうしても許せません。



我が儘






『珠紀ぃぃぃぃいっ!!』


渾身の叫びは君に届くことなく消える。


それは今から数時間前のこと。





『珠紀は死んだわ。封印の為に』


珠紀の祖母であり、先代玉依姫の言葉。


真弘の耳をすり抜ける。





『はっ?…何言って…』


真弘が冗談だろ?と続けようとするが目の前にいる老婆がぴくりとも笑ってないことに気づいた。


そしてもうひとつあることに気づく。


老婆の向こう側、倒れている見慣れた女性。





『珠…紀……?』

真弘が慌てて駆け寄った女性は間違いなく珠紀そのものだった。

『嘘だろ…?』

一瞬周りの空気が止まった感じで、気づいた時には真弘の瞳から涙がこぼれていた。


激しい慟哭を繰り返し、ただがむしゃらに珠紀を抱きしめる。


降り注ぐ五月雨は容赦なく彼女の体温を奪っていった―…








真弘は彼女の亡骸を抱きしめながら神社の階段に座り込む。





一言だって君は相談しませんでした。


私に策があるのと言って笑っていた君に不信感を覚えながらも、僕は何もできませんでした。


ちょっと散歩に行ってくるとそれが最後の別れです。





「そんなの…あんまりだろうが…っ」


真弘は珠紀を抱きしめていた腕にぐっと力をいれた。





もう君と話すこともできません。


他愛のない話をして笑いあうこともできません。


2度と同じ時間を過ごすことができないんです。





「珠紀…どうして…っ」





全てを1人で背負ったんですか?


どうして頼りにしてくれなかったんですか?


どれだけー…辛い想いをしたんですか?





「先輩だぞ俺ぁ…後輩のくせに…先輩に気遣ってんじゃねぇよ…」





君と同級生だったらと思ったことは何度もあります。でも…





『真弘先輩っ!!』





君が僕の名前を呼ぶ優しい声が頭に木霊して。





それでも先輩でいいと思えたのは君に頼ってもらえるから。





「いつも下んねぇことで頼ってきたくせに…どうして一番頼ってほしいことを頼ってこねぇんだよっ!!」





君に頼られる為に僕は居たんだ。


君をいつでも助けられるように僕は居たのにー…





「どうしてオマエが逝っちまうんだよ…っ!!」


涙と共に零れた声さえ雨の中で微かに響いて消える。





2度と君の瞳、見ることはない。


閉じた瞳はひんやりとしていてー…。





「これじゃあ…人形じゃねぇか…っ」





我が儘だといいますか?


餓鬼だと怒りますか?


なんだっていい。


君が戻ってきてくれるならー…





「珠紀ぃぃぃぃぃっ」





頼むよ。


なんだってするから。だからあいつを戻してくれ。





「大切なやつなんだっ!!」声は虚しく響きわたる。


一番届いてほしい人に届くことなく消えた。





きっと黄泉の道は独りでは寂しすぎる。


今誰よりも泣きたいのはきっと君。





「先輩なのに…俺ばっかり我が儘言ってられないよな…」


ふっと力が抜けたように笑った。





「待ってろ。今行くから」





君だけに辛い思いをさせない。


いや実はこれも我が儘か。君と一緒に居たいんだ。





彼女の亡骸が血で汚れてしまわぬように真弘は自分に刃をたてる。





「珠紀…」





俺が来たことを君は怒るかもしれないけど…





「一緒に行こう」





怖くはない。


君がそっちで待っているから。















                                                          fin

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ