緋色小説1

□再会
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好きなんだ。

君のいない世界など色あせて見えるほどに。



                  再会



長い時間だった。

実際の時間でいうとほんの数か月のことだが、

拓磨の体感で、数年に感じるほどには長い長い時間だった。



「拓磨先輩。なんかいいことあったんですか?」



宇賀谷家での勉強会中、慎司がにやにやと笑って拓磨に声をかける。



「は・はぁ!?べ・べ・べ・別にっなんもねぇよ!!」



珠紀から拓磨へ、季封村に戻ってくると連絡があったのは昨夜。

拓磨は勉強会を一人抜け出し、こっそり珠紀を迎えにいくつもりでいた。



数か月ずっと待ち侘びたのだ。

この役目だけは他の人に渡すわけにはいかない。



「…なんかよからぬことを企んでるんじゃねぇだろうなぁ。赤頭」



自然に緩む口元を隠す拓磨にひょっこり顔を出した遼が睨みをきかせる。



「あー?なんもねぇって言ってんだろうが、灰色頭!」



珠紀至上主義の守護者たちだ。

今日珠紀が帰ってくると知ったら、みんな勉強どころじゃなくなるだろう。

みなで珠紀を迎えに行き、1日中一緒にいることになる。

だからこそ絶対に、拓磨は珠紀の帰還をみんなに知られてはいけない。



「狗谷…拓磨…今は勉強中だ…」



胸倉を掴みあう二人を止めたのは淡々とした祐一の声。



「でも…祐一先輩…っ」



「異論は聞かない」



珍しく冷たい祐一の声色に拓磨は遼を放すと俯いた。



珠紀が出発した時間から考えて、到着するのはもうそろそろ。

拓磨とて騒ぎを起こしたいわけではない。

ただ1時間、いや30分だけでもここから抜け出したいというだけで。



「あの…祐一先輩…俺ちょっと外に……」



「だめですよ」



祐一より先に拓磨を止めたのは守護者最年長である大蛇である。



「鬼崎くんは今回のテストもひどい点数でしたね?」



拓磨の肩がビクッと揺れた。



「今日は1日、外へ出しませんよ」



「――…っ」



大蛇が黒い影付きで笑う。

本気で拓磨を外に出さないつもりだろう。

今日に限ってなぜこんなに邪魔が入るのか。

拓磨が唇を噛みしめていると怒鳴り声が響いた。



「何やってんだっ拓磨ぁぁぁぁっ」



「え?」

拓磨が振り返れば遅れて登場した真弘の姿。

真弘はいつも通りの勝気な笑みを浮かべて続ける。



「俺様に焼きそばパンを買ってこい!後輩なら言われずとも用意しとくのが基本だろうか
がぁ!!」



拓磨にとっては願ってもないチャンスだ。

拓磨は大きく頷くと勢いよく駆け出した。



静かになった部屋。

大蛇がため息をつく。



「……いいんですか?鴉取くん」



珠紀が今日帰ってくることを実は全員知っていた。

その上で拓磨を拘束し、妥協案として全員で迎えにいくことを提案させるのが、

大蛇を筆頭にした守護者全員の計画だったのに。



「いーんだよ。そんなせこい真似かっこわりぃだろ?」



自信たっぷりの真弘の笑顔。



「今日くらいはあいつに花持たせてやるよ」




速く、速く。風よりも速く。

彼女の元へと拓磨は駆け抜ける。

最短距離をと森を突っ切り、抜けた先には彼女がいた。

彼女は拓磨の方へと顔を向けると唇を尖らせる。



「遅いよ!!」



一言発したあと、満面の笑みを浮かべた。



「ただいま!!」



それは紛うことなき珠紀の笑顔。

待ち侘びて待ち侘びて、毎日が退屈で仕方ないほどの拓磨の想い人。

言葉より先に拓磨は珠紀を抱きしめる。



「拓磨!?」



「おかえり」



会いたかったとか、ずっと待ってたとか。

言いたいことはたくさんある中で、拓磨が選んだのはその言葉。



「――…おかえり」



「…ただいま…っ」


珠紀の腕が優しく拓磨の背中に回った。





ずっとずっと願っていたのは

1分1秒でも早い、君との再会。





                               fin

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