緋色小説1

□幸せロード
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誰かと並んで歩く道が こんなに幸せだなんて知らなかった。

他の誰でもなく 貴方とだから言える……


幸せロード



「アレー?珠紀ちゃん一緒に帰らないの?」

放課後に声をかけてくれるのは眼鏡で童顔な女性。

「ごめん!清乃ちゃん!また誘って?」

手をぱんっと合わせて謝りながら走る。

日直で少し遅れてしまった。

多分もうあの人は校門の前。



「ごめ…なさ…っま・ひろ…せんぱ…っ」

ぜぇぜぇと肩を上下に揺らしながら謝る。

「おっせぇーよ!!珠紀!」

少し甲高い声で怒るのは真弘先輩。

「で・でも…これでも走って…っ」

ようやく呼吸が落ち着いてきて、倒していた身体を起こし真弘先輩を見つめる。

「そんなの…見たらわかる…」

「…え?」

まだ少し荒い自分の息遣いで聞き取れず聞き返した。

「うっせぇ!何でもない!!行くぞ!!」

乱暴な言葉とは裏腹に差し出された手はあまりにも優しくて…

「はーい!」

手をぎゅっと掴むと握りかえしてくれた。

思わずにやけてしまう顔を隠しながら歩き出す。





「結構遅くなっちゃいましたねー」

2人の影は少し闇に包まれて。

離れてしまった手が少し寂しい。

「…オマエが遅れてくるからだろ」

遅いって言ってもまだ6時くらいなのだが

田舎のせいで街灯は少なく、夕方でも道は十分に暗く見える。

「だって日直だったんですよ?これでも急いできたんですから!」

早く真弘先輩に会いたくて とつなげるのは止めておこう。

どんな反応をするか見てみたい気もするけれど。


「この時間って一番カミが暴れやすいんだよなー」

ニヤっと笑って真弘先輩が言う。

「な・何ですか突然…やめてくださいよ」

「何だオマエ。怖いんだろ」

勝ち誇ったように、敵キャラのように笑う先輩。

口が思わずふくらむ。

「別に怖くなんかないです!」

内心びくっとしながら足を進めた。

そこで不意に草むらから影が見える。

「きゃあ!」

そう言ったと同時に私は真弘先輩の腕の中にいて。

「ほーらやっぱり怖いんじゃねぇか」

…敵わない。どうしても……。

「じゃあ…先輩が手握っててくださいよ…」

「え……」

お互いに固まる2人。

真弘先輩がちょっとしたすけべな話をすることはあっても

こんな風に甘い雰囲気になることはあんまりない。

でも決して触れたくないわけじゃない――…


「ん」

そっぽむいて ぶっきらぼうに出された手。

にっこりと笑って掴む。

「ありがとうございます!」

そして再び歩き続けた。


「私こっちに来て先輩と出会ってよかったと思います」

「な…なんだよ急に…」

先輩の顔がちょっとだけ赤らんだように見える。

「こんな歩き慣れた道も変わらない風景も、真弘先輩といるからすごく綺麗に感じる」

素直に口から出た言葉。

「私 好きな人と歩く道がこんなにも幸せなんて初めて知りました!」

真弘先輩の顔がボっと赤く染まった。

「あー先輩照れてるー」

「うっせぇっ俺だってなぁ…オ・オマエと同じこと考えてたんだよ!!」

そう言った先輩も それを聞いた私もゆでだこのように真っ赤で。

何だか火照った頭で はたから見たらバカップルなんだろうなぁ なんて考える。

「ここは幸せロードですね!」

「…幸せロード?」

ん?と言うような顔をして真弘先輩が言う。

「幸せな道って意味ですよ」

ちょっとからかって笑うと真弘先輩もムキになって怒った。

「それぐらい俺にもわかるんだよ!!」

声を出して笑った。

こんな時間がすごく楽しい。



「つかここだけじゃねぇだろ…」

「え…?」

「俺がいればどこだって幸せロードだろうが!」

思いもしなかった一言にびっくりして固まる。

そしてまた笑った。

「先輩…っ顔真っ赤!」

「オ・オマエもだろ!!」

きっと先輩の言う通り 私の顔も赤く染まってる。

こんなにも幸せだと思える時間。永遠にでも続けばいい。



「そうですね。地獄だって先輩といれるなら幸せな気がします」

「ったりめーだ」


貴方と歩くから言える。 貴方の傍だから言える。

心から 「幸せです」と――…





                                        fin

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