緋色小説1

□優しさ、故に
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護ってくれると言った貴方を


私は幸せにすることができるでしょうか?




優しさ、故に





「珠紀っ」

帰り道、聞こえたのは1つの声。



「拓磨」

声の主は珠紀に走って駆け寄って来た。

「オマエっあれほど独りで行動するなって言っただろ…」


少し息を切らしながら言う。



「心配しすぎだよ拓磨ー。もうロゴスが襲って来ることもないんだし」


笑って珠紀が言うと拓磨が呆れたような顔をした。



「そうとは言いきれないだろ…それにロゴスの心配はなくてもカミが襲ってこないとは限らないんだぞ?」



優しい優しい貴方。


いつも私を護ってくれて、いつも私を助けてくれて。


でもねその優しさが苦しいよ。



「大丈夫。大丈夫」



そんなに護ってくれなくていいよ。


そんなに気にかけなくていいよ。





「だから言ってるだろ?よくないって」


いわゆるしかめっ面をする拓磨。





駄目だよ。


貴方の大切な時間を、私なんかの為に使っちゃいけないの。





「大丈夫だって…っ!!」





苦しい。苦しいの。


貴方は私を大事にしてくれる。


それはすごく嬉しい。


貴方のことが好きだから。


でも…





「その優しさが…っ辛いの…!!」





「珠…紀…?」


拓磨はただ呆然と珠紀を見つめる。





遠くで聞こえる虫の声。


いやに煩く感じた。





すごく大切なこの人に…





「私は…何も返せない…っ」





いつも一緒に居てくれる貴方に、私は何を返せるのかな?


貴方がくれる一欠片でも、私は何か返せるの?





「そんなこと考えなくていいんだよ…珠紀!!」





俺がしたいからしてるんだと拓磨の悲痛な叫びが珠紀の目尻を濡らす。





「拓磨の優しさを…当たり前だと思いたくないの」





いつもいつも護られてばかりで、自分のことは後回しで。


そんな生活しなくていいんだよ。


自分の為に生きればいいんだよ。





「当たり前だと思えばいい。俺を利用すればいいんだ」





「それじゃあ駄目だよ…。拓磨が居たら…私は強くなれない…」





成長しない私。


なんて惨めなんでしょう。


貴方が傍にいると、どうしても私は貴方を頼ってしまう。


私は何もしてあげることができないのに。


自分の無力さを痛感する。








「惨めに…なるの…」





護られてばかりの存在だと思われるのが。


貴方がいないと何もできないと思われるのが。





君がいるだけで嬉しくて。


並んで歩くと微笑んで。


この時間が永遠に続けばいいとさえ思った。





いつの間にか、遠くに聞こえた虫の音さえ聞こえない。


不愉快なぐらいの晴天に、泣きたくなるほど白い雲。


「今まで…ありがとう」





精一杯の笑顔。


今までの過去との決別。





利用していいなんて言わないで。


利用するなって言えばいいんだよ。


甘えるんじゃねぇよって笑って言ってくれる方が優しさだとも思えるの。





ごめんなさい。


ごめんなさい。


今更だってわかってる。


責任転嫁だってわかってる。





「珠…紀…」





だからそんな置き去りにされた子供の様な顔をしないで。


悪いのは全て私なの。


めちゃくちゃだと。


嫌な女だと。


罵ってくれていいの。





「ー…っ」





じゃなきゃ私も私を許せないー…。





滴り落ちる涙は後悔?


それとも懺悔なのでしょうか?


どちらにしてもとても冷たい。





「もうオマエは俺がその涙を拭くことさえ必要としてないんだな」


歯がゆそうな、寂しそうな微笑み。





「そうだよ」





貴方の為でもあるなんて言わない。言えない。





今願うのはただ君が幸せでありますようにとー…





「さようなら」





どうか貴方が自由になるよう。


どうかどうか幸せに。







                     fin

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