薄桜鬼小説1

□道程過程
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僕がもし普通の男なら…

こんなにも君を悲しませることはなかったかもしれないね




道程過程





殺したのは、兄だった。


存在を知ってまだ間もない、千鶴ちゃんの兄。


油断してはいけなかった。


"千鶴ちゃんの兄"に踊らされてもいけないと。


そのせいで一度彼女を傷つけたから。


わかってたから気を抜かなかったんだ。





なのに…今僕の目の前にいる彼女は何でこんなに傷ついているの?





これが一番いいと思ったんだ。


君に傷を作るなら、彼女の家族でさえ殺す。


それがいいと思ってたのにー…





「千鶴ちゃ…「沖田さん」





僕の言葉を遮って千鶴ちゃんが薫から目を離す。


それからこっちを向いた。





「私がもっとしっかりしてたら…他の道を選んでたら…っ」





声が震えている。


彼女の目尻にたまった涙が一筋頬に流れた。





「こんなことには…ならなかったんでしょうか……っ?」





彼女の兄はひどく人間を憎んでいる。


千鶴ちゃんをも傷つけた。


憎しみを知ってもらう為に、なんていう下らない理由で。





それでも彼女は兄のこの末路に涙を流すんだ。





「きっと…君がどうしたってこうなることに変わりはなかったよ」





気休めにもならないことは知ってる。


だって他でもない僕の言葉だ。


何の価値もない。


けど声をかけなければ千鶴ちゃんが壊れてしまうような気がしてた。





次々と千鶴ちゃんの目から涙がこぼれる。


拭おうと手を伸ばしてみたものの、


自分の手が返り血で汚れていることに気づいて静かに引いた。





「悲しみの向こうには喜びがあるって父様に言われてきました」





唇を噛みしめる彼女の姿が痛い。


僕も拳を握りしめる。





「本当に…この先に喜びがあるんですか…?」





彼女の悲しみが僕にはわからないのが辛い。


人の死を悲しむのに僕は人を殺しすぎた。





「私が…もっと…!」





誰に訊いたとしても彼女は悪くないのに。


君を傷つけたのは薫で、


その薫を殺したのは僕なのに。


なんで君はそんなに自分を責めるの…?





「…君じゃない」





君が悪いんじゃない。


悪いとしたら僕だ。


僕がこんなじゃなかったら、


こんなに君を傷つけることはなかった。





「沖田…さん…」





止まってはいるが、


千鶴ちゃんの頬には涙が乾いた跡が残っている。


君にそんな顔をさせた自分に情けなかった。





今までの僕の進んできた道に後悔はしていない。


けど相当ひどいものだってわかってる。


君と一緒に居るようになってから。


だから…





「ごめんね。僕はこんなだから、この先僕と暮らすことが喜びだなんて言ってあげられない…」





僕と暮らすことが幸せだなんて言える筈がない。


君は澄んでいるけど、


僕はこんなに汚れている。君が僕を蔑みの瞳で見ることもあるかもしれない。





「だけど探すよ。君と居れることが僕の喜びだから、僕は君の喜びを探す」





これまでの僕は消えないけど、


これからの僕は君と同じように綺麗にしたい。





「行こう。千鶴ちゃん」





手を差し出すと握ってくれる。


その手で僕を浄化して。








これからはきっと綺麗になりたい。


君と並んで歩けるくらい。






                          fin

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