薄桜鬼小説1

□綺麗な顔、心
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その汗がまたかっこいい。


役者みたいに綺麗な彼。




綺麗な顔、心







「暑い!」





新政府軍との戦いも終わり、


死んだことになっている土方と千鶴は蝦夷でひっそり暮らしている。


いくら蝦夷は涼しいと言っても夏はやはり暑かった。



「打ち水でもしましょうか?」





そう言って千鶴が土方の方を向くと、


汗を拭う彼の姿がある。


端正な顔立ちもあり、


「水も滴るいい男ってこのことだなぁ」なんて千鶴に思わせた。





「なんだぁ千鶴。見とれてんのか?」





冗談のように言われた言葉に千鶴も冗談のように笑う。





「はい」





その瞬間、土方がばっと顔を逸らした。





「ど・どうしたんですか!?土方さん」





千鶴が慌てて駆け寄って顔を見上げようとするが、


土方の顔はより一層逸らされる。





「ま・まさか暑さにっ!」





千鶴がぐいっと半ば強引に土方の顔を自分の方へ向かせた。


案の定顔は赤く染まっている。





「やっぱり!今冷たい水をもってきますからっ」





そう言って走りだそうとする千鶴の腕をすかさず土方が握った。





「ちょっと落ち着け」





呆れたような声色に千鶴も立ち止まる。





千鶴が首を傾げて土方を見つめると、


土方は堪えきれなくなったように笑った。





「お前…無駄なとこには敏感に反応すんのに色恋事になるとてんで鈍感になるな」





呆れたようで優しい土方の声に千鶴の頬もほんのりと赤く染まる。





「俺を赤くしてんのはお前だよ。千鶴」





耳元に口をよせ囁かれると、


途端に千鶴の顔は真っ赤になった。


それを見て土方も満足げに笑う。





「ひ・土方さんからか…っ」





千鶴が言い終わる前に千鶴の口は土方の胸に押さえつけられた。


まるで「何もしゃべるな」と言われているようである。


「からかってるわけねぇだろうが」





そう言いながらも土方はくつくつと笑っているのだから微塵も説得力がない。





千鶴は身体をひねらせようやく口を解放すると、


不貞腐れたように呟く。





「汗臭いんだから放してください」





一瞬土方が固まったが、


その後すぐ腕に力が込められた。





「さっきそんな汗にまみれた俺にみとれたって言ったじゃねぇか」





「それは……」





冗談のように返したが紛れもない事実。


千鶴は言葉につまる。





「そ・それは…土方さんが役者さんみたいな整った顔してるから悪いんです!」





千鶴にしてはたっぷりと皮肉を込めたつもりなのだが、


土方には本心がバレているのか。


土方は不敵な笑みを浮かべた。





「この顔もお前の目を奪えるってんならすてたもんじゃねぇな」





千鶴ははっとした後口を尖らせる。








「ま・またからかいましたね!?」





「冗談。俺ぁからかっちゃいねぇよ」





「それはそれで駄目ですっ」





土方の言葉は冗談でも本音でも千鶴の顔を赤く染めるらしい。





「じゃあ俺はどうすりゃあいいんだよ」





呆れたように笑う土方に、


千鶴は精一杯強がって「知りませんっ」とだけ返した。











どんな彼も綺麗だけど


好きになったのは貴方のすべて。















                              fin

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