波瀾万丈

□運否天賦
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チョッパーとナミが目を凝らす方向を確認して同じように集中してみるが、言われてみれば灯台のような建物の近くに豆粒があるな、くらい。
人には絶対に見えない。
どんな視力してんだ、お前ら、とちょっと憧れた。

「本当に手を振ってんの?」

「そうよ」

「近づいてこいってこと?助けを求めてるとか?遭難したとか、釣りしててうっかり取り残された、とか?」

島から距離のある位置にある不思議な建物。
そこにいる人影。
となれば救助をまず想像したのだけれど、

「おい、怪しいぞ」

同じチキン同盟からは警告が出た。
ああ、うん、だよな。
まるっと平和な世界じゃなかった。
海賊がうようよいるような世界だった。

どうすんの?と身を乗り出しているナミを窺うと、顎に指をあてるようにしてほんの少しだけ考えるような仕草をした後、キッパリと言い切った。

「行ってみましょう。何かあるのかもしれないし。それに、この辺りの海流も複雑だわ」

乗り越えられないこともないけれど、と頼もしい発言をしつつも視線は不思議な建物から離れない。
海流に乗ったサニー号はズンズン、ズンズン不思議な建物の方へと向かっていく。
ようやく豆粒っぽい何かが建物の近くにあると気づき、それがチョッパーとナミの言う人影だと分かる距離になり、それよりも近くなって潮風に乗って

「おーい!お前らー、この先の島に行くんならー、左周りで行けー」

なんて声が届く。

「左周り?」

「なんでだ?」

ウソップとチョッパーの訝しげな声がハモる。
なんで?と一緒になって首を傾げていると、

「おじさーん!どうしてー!」

身を乗り出したナミが可愛らしい声で思いっきりそう叫んだ。

「右周りの港はー、もう船がー入らねぇー。だから左から島に回りこめー」

真っ直ぐ進んだら座礁するぞー、なんて叫ばれて、ナミが鋭くウソップの名を呼んだ。

「サンジくんに知らせてきて」

「おう!」

舵を握っているサンジへの伝令となったウソップがバタバタと駆けていくのを見ながら、近づいてくる灯台を待つ。
豆粒から人影へ、人影からちゃんとした人の姿へ。
思いっきり叫ばなくても聞こえるような距離になって初めてナミがにこりとした完璧なまでに表情を作り上げて笑った。

「ありがとうね、おじさん」

「かまわねーよ。これがこの時期の仕事だ」

「この時期の仕事?」

ナミの笑顔に照れながらもそう答える言葉の中に引っかかりを覚えて首を傾げる。
時期?
なんで?
多分誰もが同じ気持ちだったのだろう。
なんで?と揃って首を傾げたのを見たのか、サニー号を見上げていたおじさんが驚いたような表情を見せた。

「なんだお前ら、祭を見に来たんじゃねーのか?」

「祭?」

「ああ、そうだ。祭だ。しらねーで来たのか。そりゃ、なんともグッドタイミングだな」

カカカ、と笑うおじさんはかなりご機嫌そうだ。

「盛大なのか!?」

チョッパーが興奮したように身を乗り出して声をあげる。

「おう!そりゃぁ、もちろんな!朝から晩まで飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎだ!!楽しんでいけよー!だが、揉め事は起こすんじゃねーぞー!」

島に向かった潮の流れに乗ったサニー号と灯台のような不思議な建物がすれ違う。
人の良さそうなおじさんはにこにこ顔でこちらを見上げていた。

「祭だって」

「へぇ。なんかいい時期なのかしらね。ありがとう、おじさん!」

「野菜も果物もうめーからな!堪能しろ」

「「「思いっきり堪能します」」」

ウソップとチョッパーと共にお腹を摩りながらそう叫んだ。
腹へった。
めちゃくちゃ減った。
変な建物とその人影に忘れていた空腹が舞い戻ってきた。
ぐぅっと盛大になったお腹の音が物凄く切ない。

先ほどまでニクと騒いでいた船長は背後で返事がない、ただの屍のようだ、という状況である。
お祭があるという島。
野菜も果物も上手い時期ならもう言うことなし。

ありがとう、神様!
幸運をありがとう!
この世界に落ちてきてから初めて神に感謝を捧げた瞬間かもしれない。

「おっと、忘れてたー。ログはー、この時期はー、5日いねーと、たまんねーからなぁーーーー」

左周りということで左に傾いた船の上。
通り過ぎたおじさんから届いた声にギョっとする。

「ちょ!5日!?」

「嘘でしょ!?」

ナミとの驚愕の声が重なる。
5日?
5日もこの島に足止め!?
数秒前に捧げた神への感謝の言葉を直ぐ様罵りの言葉へと変えたのだった。


ガッディム!





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