波瀾万丈

□意志薄弱
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「能力者だけ、か」

答えを引き継いだのは緑の剣士。
は?なに?
なにが、なんだって?

「本当だわ」

「ルフィにチョッパーにブルックにロビン…だけか!」

え?
能力者、だけ?
なにが?
頭の上に手を置いたまま10の瞳に見下ろされる。
ああああ、もう!
ひっつかれたり、頭に手をおかれたり!
限界だ、ちくしょう!

「すみませんっ!」

声を張り上げて視線を上げる。
多分、話が通じるのはひっついている人間じゃない方だ。

「あのですね!俺、何がなんだか分からないままココなんですけど。めっちゃ攫われてんですけど!!帰していただくことは可能なんでしょうか!!つか、ひっついてる奴らはいい加減全員離れろ!」

ふざけんな、こちとら一般人だ、と主張する。
思いっきり主張する。
主人公達は海賊といえど海賊らしからぬ一団だったはずだ。
人攫いなんて絶対にしないであろう彼らに望みをかけて訴えれば、オレンジ髪の女の子の瞳がはっと見開かれる。

「あ…ああ、そうね。同じ島にってのは出来ないけれど、近くの島になら下ろせると思――」

「らメだ!」

否定の声は背後からあがった。
それも『船長』から。

「ルフィ、あんたね。あの時は海軍が迫っててあたふたしてしてたけど、この子、攫ってきちゃってんのよ?帰してやりなさいよ」

「いやら!」

「いい加減にしろ、クソゴムが」

もっと言って。
ガツガツ言ってやって。
人攫いしちゃったんだぞって分からせてやって。
ほんと、近くの島でいいんでおろしてください。
平和な島に戻りたいんです。
いくら主人公とはいえ何でもわがままが通ると思うなよ。
世界はお前中心に回って―――るんだろうな。
主人公だもんな。



………。



いや、でもそんなのどうでもいい。
俺は帰る。
あの島に。
そして元の世界に!
絶対に帰るんだ、と闘志を燃やしていると


「おれたちといっしょはいらか?」
「そうらのか?」
「およよ、さみしーですね」
「かなしい」


四方から沈みきった声が耳へと届く。
え、と見下ろした膝の上には涙をためて光る黒くて可愛らしい瞳が。
慌てて逸らせばなんだか影をしょった骸骨が。
いかんいかんと更に反対側へと逸らせば、美女の潤んだ瞳が。
背後からは離さないとばかりに圧し掛かってくる体重。


「いやか?」
「いやなのか?」
「いやなのですか?」
「いやなの?」


え、あの……。
え?
なんだか間近で聞こえる泣きそうな声と表情におろおろする。
嫌に決まってんだろうが!とここでぶっちゃけたらどうなるんだろう……、と助けを求めて視線を上げれば、頭に触れていた人物達にいっせいに視線を逸らされた。
見 捨 て ら れ た !
いや、だって、良く考えて。
普通は嫌だよな。
人に触れられるのが慣れてる慣れてないとかいうレベルはとうに越えてしまっているし。
べったりだ、べったり。
自分の身体が粘着物質になってしまってるんじゃないかと疑うくらいの引っ付き具合。
十数年生きてきてこんなにも人にベタベタされたのは幼少期を抜かしては初めてだと断言しよう。
だから、ぶっちゃけ離れて欲しい―――とぶちまけたいのに、じーっと見つめてくる瞳と背後から圧し掛かってくる体重に、負けた。



「ひ、っつかないで、いただけたら、…別にそれほど…いやでは……ないような、ないと思いたいような……。あ、嘘です。やっぱちょっといやだから―――」

嫌だから、帰ります―――と繋げるつもりだった。
けれど、出来なかった。
ぼそぼそと呟いた途端、全部を紡ぎ終えていないというのにぎゅうっと拘束が強くなる。
背後から、正面から。
右腕に左腕。
ぎゅうぎゅうと隙間がなくなるほどに引っ付かれて、ぐええ、と悲鳴が漏れた。


「ちょ、ちょっと待っ…」

「やじゃないのか!」
「うわー!」
「うれしいですねぇ」
「ふふふ」


なんて、とろんっととろけたような笑みで言われてしまったら、なんだか、こう、口に出せなかったというか。


うん、
確実にタイミングを逃したと思う。






意志薄弱






NO、とハッキリ言えないから日本人なんです。




2011.07.04
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