波瀾万丈
□青天霹靂
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「おーい、***、見ろ見ろ!」
「ウワー、スゴーイ」
「お前、まったく心がこもってねーな!」
「***!俺もデッカイの釣るぞ!」
「ガンバレ、ちょっぱー!」
「俺も!」
「はいはい、がんばれ、せんちょー!」
「ルフィ!」
「るふぃー」
気持ちのいい日差しが降り注ぐ甲板に置かれたテーブルセット(パラソル付き)の椅子に腰掛けながらヒラヒラと手を振る。
釣りに興じているのはウソップとチョッパーとルフィ。
いつもの三人だ。
ウソップが魚を釣ってこちらに見せるので、すげーな、とまったくもってやる気のない賛辞を送れば、俺も頑張る!と気合を入れなおしている能力組。
釣りしよーぜ、と誘われて、糸で手を切ったらどうすんだ、針で指先ぶっさ刺したらどうすんだ、と深窓のお姫様のようにNOをたたきつけた。
あれ、俺、なんかNOを言える日本人になってる!
と浮かれたのもつかの間、ぶーぶーと纏わり着いてくるので、じゃぁ、近くで見てる、と―――……結局NOを言えない日本人丸出しだった。
今日も相変わらずの負け戦っぷりである。
そんな俺を乗せたサニー号の上は抜けるような青空で風も波も穏やか。
船がまったりゆっくりと進む中、糸をたらしている三人を見つめる。
釣りというのはヒットが多ければ楽しいが、それ以外は忍耐の一文字だ。
やっているほうも眠くなったりとダレることが多いのに、ただ見ているだけなんて暇で暇で暇でしょうがない。
近くで見てると言ってしまった手前、いなきゃいけないだろうと思って腰掛けていたし、釣りあがった魚を見せてくれれば凄いなってお決まりの言葉を返していたけれど。
段々とやる気もなくなるのは察して欲しい。
だって、マジ、暇すぎて苦痛なんだけど?
声を出すのだってダルイんだけど?
もういいだろうか。
かなりの時間を傍で見ていたのだから、……いいよな。
船の端でキャッキャしている三人の背中を見つめながら、ここで立ち上がっても気づかれないだろうと踏んで腰を上げた瞬間、
パラソルではない影が間近に出来上がり、そちらへと視線が向いた。
「―――馴染んでるじゃない」
にっこり笑顔と共に現れた存在に思いっきり腰が引けた。
馴染んでる?
何に?
この船に?
それともメンバーに?
馬鹿言っちゃいけない。
「いやー、ははは……それほどでも…」
ない。
ないよ、まったく。
これっぽっちもないよ、と答えたくとも日本人。
あいまいに濁しながら逃走経路を見出そうと視線を泳がす。
このパラソルを使うのはナミやロビンなどの女性陣が多い。
今日は誰もいなかったので使わせてもらったが………、タイミングを見計らうとかのたのたやってないで早めに引き上げるべきだった!
脳裏に、かさぶたガリッ、の恐怖が蘇る。
あれもココだった。
構図は反対でナミが座っていて、そこに俺が来たのだったけれど。
細かい事はどうでもいい。
とりあえず退散しようと椅子から腰をあげ、ウロウロと視線をさ迷わせていると、
「とりあえず、座って、***」
「え、あ、いや」
「座って」
「はい」
ビっと指差されて、あわわ、と慌てながら腰を戻す。
どこが一番安全に逃げられるかな、なんて考えずに一目散に逃げ去るべきだったのに。
何度同じ間違えをすれば俺は学ぶんだろうか…。
パラソルの下の椅子に座りながらだらだらと汗を流す。
別に悪いこともしてないし、ナミだって悪いことをしようとしているわけじゃないんだろうけれど―――あれはトラウマだ。
かさぶたガリッのせいで、せっかく離れていた能力者べたべた状態が三日も続いたのだから。
「***」
「はい」
「……なんなのよ、そんなに緊張しなくてもいいでしょ。アイツらには緊張のきの字もないんだから」
私が攫ったわけじゃないじゃない、と繋げれらて、いやでもそりゃあんたああされたらさ、と言い返したくとも根っからのチキンなのでその言葉はぐっと飲み込んだ。
「ま、いいわ。ちょっとアンタに内緒の話があるのよ」
しっと口元に人差し指を当てるようにしてこちらをのぞきこんでくる可愛い航海士に思わずパチパチと瞬きをしながら首を傾げる。
え?なに?
「内緒の、話?」
「そうよ。本当は人がいない場所に移動したいんだけど、見つかったら煩いからここで。アンタが騒いだりしなかったらアイツらは釣りしてるでしょ?」
騒がないでよ、と鋭く睨まれる様に強く念を押されて、慌てて大きく頷いた。
騒ぐなって。
なんだろうか。
なにを内緒話されるんだろうか。
やっぱり逃げておいた方が良かったのかもしれないと後悔が心の中を渦巻いた。
馬鹿馬鹿、俺の馬鹿。
「あのね、あと三日で次の島に着きそうなのよね」
手首につけられた不思議な方位磁石のようなものを指差して、航海士がにこりと笑う。
「調べてみたら結構大きい島みたいなのよ。このグランドラインで色々な連絡船や商船が立ち寄る場所らしいわ」
「……は、ぁ」
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