波瀾万丈
□我武者羅
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甲板の掃除をし、食事の準備に後片付け、洗濯、ミカン畑の草取り、本の整理、面白武器のアイデア、纏わり着いてくるちびっこ(一人はチビでもなく船の中で一番偉いはずの身分の存在だけれど)の相手―――、
誰かが何かをしようとすれば、お手伝いするよー、と声をかけて。
あっちへ行ったり、こっちに駆けたり。
なんだか一日中駆けずり回ってることの方が多くなった。
「お、***!こっち来てみろよ」
「なになに?お手伝い?」
「いや、面白いもん作ったんだけどよ」
「ごめん、ウソップ!また今度な!」
「あ!おいっ!」
作業場から顔を出して声をかけてきたウソップにごめんと再度呟いてから駆け抜ける。
ばたばたと甲板を移動していると、
「***!遊ぼう!」
「かくれんぼしよう!」
「なんなの超かわいい!!けどダメー!」
ひょこっと出てきたのは少年の心を忘れない……んじゃなくて、少年のまんまのルフィといつまでも可愛いチョッパーだ。
かくれんぼ、だって!
なにそれ、かわいい!
だがしかし、
「悪いな!また今度!」
拝むように両手を合わせてから、ぶーぶーと頬を膨らます二人の横をすり抜ける。
「***ー!」
「なんでだ!」
「ごめんって!ほんと今度付き合うからー!」
背中にかけられる言葉に叫び返してから走る速度をあげる。
えーっと、皿洗いは終わらせたし、サンジに頼まれていた夕飯の簡単な仕込みは冷蔵庫に入れたし、ナミのみかん畑の草取りは終わったし、洗濯物は取り込んだ。
とりあえず今日残ってるのはフランキーと一緒にする甲板掃除だけなのだけれど。
「そんなに急いでどこにいくの?」
「ロビン!」
完璧なプロポーションを惜しげもなく晒して、ゆっくりと階段を下りてくる存在の名を紡げば、にこりとした笑みが降ってくる。
「この前、読みたいといってた本があったでしょう?今、あるけれど、どうする?」
「え、あ、貸して!…って、ごめん!だめだ。後で取りにいってもいい?」
ひらり、と。
ロビンの身体に生えた手。
そこに深緑色を見る。
手触りの良さそうなベルベッド地の豪華な装丁に金糸でタイトルが綴られている。
その長い英文を何とか読み取った瞬間、引き寄せられそうになったのだけれど。
いかん、いかん。
約束を優先せねば。
せっかく持ってきてくれたのに、と謝ればロビンの綺麗な眉が微かに寄った。
「別にいいのよ。でも、そんなに急いでどうしたの?」
「フランキーと約束あって!ごめん!後でちゃんと行く!」
「ええ、分かったわ」
こくりと頷いたロビンに大きく手を振って階段の脇を駆け抜ければ、
「***さん」
バイオリン片手にヨホヨホと近づいてくる骸骨に小首を傾げた。
今日はなんだか呼び止められることが多いな、と。
「なに?」
「この前ちょっとハミングしていた曲を教えていただきたくて」
お時間よろしいですか、というかなり嬉しい申し出をされてしまった。
ふんふーん、と口ずさむというよりも鼻ずさむ曲はどれもこれも元いた世界のものばかりであるので(ぶっちゃけこっちの音楽は良くしらない)、珍しい旋律に興味を持ったのかブルックが教えてくれと言ってくることがあって。
しかも覚えたらそれをバイオリンで弾いてくれたりするものだから、二度と自分の鼻歌でしか聴けないだろうと思っていた曲が再現されるのは物凄く懐かしいし、嬉しいし―――絶対に帰るという気持ちを奮い立たせてくれる。
だからこそ出来る限りこの陽気で腕のいい音楽家に付き合うのは好きだったりするのだが、
「ごめん!今はちょっと無理っていうか……今度でもいい?」
「そうですか。残念ですが次回を楽しみしてます」
「ありがと!俺も、すげー楽しみにしてる!」
と手を振れば、ヨホヨホと同じように手を振られる。
それを見ながらバタバタと足音も荒く甲板を通り抜けて、フランキー専用の作業場へと急いだ。
約束した時間はかなり過ぎてしまっている。
どんなに頑張っても、急いでも一般人中の一般人の駆け足の速度が劇的に上がることはない。
もうちょっと早かったらよかったのに!
ボルトみたいな速さが今、切実に欲しい!と願いながらトテンカントテンカンという金属音の聞こえる場所へと飛び込んだ。
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