波瀾万丈
□宋襄之仁
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「いいかテメーら。美しいナミさんが言うには次の島までは最低でも10日はかかるらしい」
「「「イエッ、サー!」」」
「だというのに冷蔵庫の中は野菜以外は空っぽだ」
「「「イエッ、サー!!!」」」
「イエッサーじゃねぇんだよ、この馬鹿野郎どもが!またつまみ食いしやがって!」
「だってよー、サンジー」
「しっ、逆らうな、ルフィ!」
「あわ、あわわわ…!」
「だって、じゃねぇ!」
日光浴をしながらロビンに借りた本でも読もうとパラソルの下に腰掛けた途端に聞こえた怒号とズガンっと甲板を蹴り上げる乾いた音。
何事かと慌てて辺りを見渡せば、いつも通りの光景が広がっていた。
キリキリと怒っているのはサンジで怒られているのはいつもの三人組みだ。
なにやったんだろう、と静かに窺っていると、会話の流れからして夜中につまみ食いをしたらしい。
そして、
「テメーらのせいでナミさんやロビンちゃんの食料がなくなってんだよ!海王類とはいわねぇ。海獣くらいは釣れ」
と、それだけで海王類も海獣も射殺せそうな視線で三人を睨むサンジに、納得した。
朝食もシリアルとフルーツのみで、今日はちょっと質素じゃん?と思ったら―――こんなことになってたのか。
まぁ、底なしの食欲を持つルフィがつまみ食いをして残っているとは思ってもいなかったけれど。
「いいか、釣れなかったらどうなるか分かってんだろうな」
ぶーっと不満そうに頬を膨らませるルフィを見たのか、それともサンジの真似と言ってチョッパーを笑わせていたウソップを見たからか、
ギラリ、とぐるぐる眉毛の下の瞳が不気味に光る。
それを見て釣竿を持った三人はシャンっと背筋を伸ばして不恰好な敬礼をした。
触らぬ神にたたりなし。
ことわざとは教訓を含んでいるものだ。
今は静かにしているのが一番いい。
くわばらくわばら、と魔よけの呪文を心の中で呟きながら絶対に内緒でつまみ食いはしないと誓ってから手にしていた本へと静かに視線を落とした瞬間だった。
「おい―――***」
「うえ!?」
いきなりかけられた鋭い声にビクリと身体が跳ねる。
こちらを見つめるサンジの視線はつまみ食い連中に向けていた殺気みなぎるものではなかったけれど、充分な迫力があった。
思わずごくりと喉が鳴った。
何故、睨まれているんだろう。
何故、何もしていない俺が、睨まれているんだろう。
え、っと?
なに?
何か御用でしょうか?
と恐る恐る視線だけで問えば、
「こいつら見張ってろ」
くいっと顎をしゃくるような仕草をされ、その先にいたのはビシっと伸ばした背筋で釣竿を垂らしている三人。
………。
は?
見張れ?
え?
三人を?
「手伝いしてーんだろ?今日はもうノルマ達成か?」
心の中の問いかけを読んだかのような(実際には表情に出てしまっていたんだろうけれど)ジャストタイミングな言葉。
「ま、まだ」
迫力に負けて、慌ててぶんぶんっと首を横へと振れば、
「なら、やれ」
そう命令されてしまった。
えー!そんなお手伝いは嫌だ、と。
そう主張しようと思った。
だってなんだか思いっきり巻き込まれている感があるからだ。
悪くないのに。
こっちは1ミリとて悪くないのに!
けれど、
「―――なんか文句でもあんのか?」
「いいえ、ありません、サー」
ギロリと睨まれて首を高速で横に振る。振りまくった。
NOと言えないのが日本人です。
というよりもチキン魂が『めっちゃ危険!ここで反抗すると危険ってレベルじゃねーよ!』と訴えてきているので綺麗に流されることにする。
ビシっと……不恰好な敬礼をつまみ食い連中のように繰り出しながら背筋を伸ばす。
金の髪を海風に靡かせた鬼神は、ギリギリとこちらを睨みながら(正確には釣り糸を垂らしている三人を睨みながら)、細い煙草へと流れるような仕草で火をつける。
そうして、
「釣れなきゃ飯抜きだ」
と、最悪な言葉を落として靴音も荒く退場なされたのだった。
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