波瀾万丈

□運否天賦
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ようやく、本当にようやく海の果てに陸地らしきものが見えた時、
プラトーンという映画は見たことがないが、あの印象的な膝付き両手上げの姿勢で『よっしゃーーー!』と叫んでしまった。

本来であればエイドリアーンの方が良かったのだが、立ってガッツポーズをする元気がなかったのだ。
空腹で。

10日ほど前、我らが船長と長っ鼻と船医が盛大なつまみ食いをした為にサンジの命たる冷蔵庫や貯蔵庫を空っぽにしくさった。
正確には肉のみを空っぽにしてくれた。
背後に鬼のスタンドが立ち上がるんじゃないかという勢いでコックが怒った。
それはもう怒ったというレベルじゃなかった。
夢に見そうなほどの迫力で『食料がねぇ!海王類とはいわねぇ。海獣くらいは釣れ』という命令を下した。

ぶっちゃけ命に関わることだった。
釣れなかったら二重の意味で。
サンジに蹴り殺されるか、空腹でくたばるか。
それに善良な市民が巻き込まれた。


――― 俺 で あ る 。


つまみ食いなんてしていない。
夜中に肉なんてどんな胸焼けコースだよ、という胃腸の持ち主なので肉なんて食いたいとも思わない。
なのに犯人一味が怒られている側にいたってだけで『手伝い』を申し出され、見張りをすることになった。
なんで俺が!と思っても相手は鬼神と化してしまった最強のコックである。
釣れなかったら飯抜きだ、と何の罪のない俺まで巻き込んでの釣り大会が始まったのだけれど、釣れない。

ヒットのない釣りというのは結構だれる。
自分が面白いと感じて読んでいた本がマイナーだったと知ったりもしたけれど、とりあえず巻き込まれたのだからちょっとばかり手伝って……いやいや、あれだ。
お手伝いは一日ひとりって決まってるから破っちゃダメだし。

破っちゃったらナミ曰く『大変なこと』になるらしいので、これは手伝いじゃない。
興味だ。
釣りという行為に対する興味である、として釣竿を受け取った。

慣れない事はするものではない。
後悔先に立たずとは良くいったものである。
釣針で指先をプツリ。
あ、っと思った瞬間にはもう最期だった。

べたべたべたべたべったりんこ。

能力者達がひっついてきて、ただでさえ食料がない船だというのに能力者達がことごとく使い物にならなくなってしまった。
ゴロゴロニャンと纏わり着く能力者達。
針の怪我でこれか…と泣きたい気分の中、ナミだけはニヨニヨご機嫌だった。

そのご機嫌理由は分かっている。
能力者をことごとく酔っ払い状態へとさせてしまう『血』を使って必殺技的な物を考えろと言われているので、いい機会よね!とか思っているに違いなかった。

それって人としてどうなの!?
俺怪我してんだけど!?
冷蔵庫も貯蔵庫も空っぽなんだけど!?
と突っ込みたくなる悪魔からは離れ、能力者達を引っ付けながら静かに座禅した。
心の中で感情を全て封じてただひとつの事だけを念じた。

早くこの血を止めてくれ、と。

自分の白血球と血小板に念じ続けた。
その願いが届いたのか―――というより針で指した傷はそうたいして深くはないものなので数日もあれば完璧にふさがった。
皮膚がピタっとくっ付き今ではそこに針を刺したかどうかも分からない状態、いわゆる元通り!というやつである。

やったね、と自らの回復力に拍手喝采を送りたいけれども―――数日間能力者はほぼ使えない状態だった。
怪我が治るまでかなり肩身の狭い思いをした。
ウソップが頑張って釣りをしてくれなかったら、能力者引っ付けたまま海へと飛び込んでいたかもしれない。
コイツらを道連れに海の藻屑となるのがせめてもの罪滅ぼし、として。

「島だ!島だ!***、見えるか?長かったなー」

「長かったな、チョッパー!」

「にーーーーくぅぅぅぅーーーー」

「誰のせいだと思ってんだ」

プラトーンスタイルで喜びを現す背後で交わされる会話は皆喜びと安堵を滲ませている。
早く、早く、早く島に!
むしろ飯屋に!
直行しようぜ!と霞むほどだった陸地の影が段々と濃くなっていくのを胸を高鳴らせながら見つめる。

「腹へったー」

「ニクゥゥゥゥ」

「直ぐご飯食おう。マジ食おう」

「そうだな」

ウソップにルフィ、チョッパーと共にわふわふと待てをさせられた犬状態で甲板の一角を陣取っていると。

「なんだあれ?」

訝しげなウソップの声に、ご飯何食べる?何にしよっか!とキャッキャしながら食べたいものを交互にあげあっていたチョッパーと共に振り返った。

なんだあれって、なにが?
段々と島の形とってきた陸地の手間に何かが見える。
形としては灯台に近い。
それが海の真ん中にニョキっと生えていた。

「え?灯台?」

「海にか?」

そうウソップに突っ込まれても灯台のようにしか見えないわけで。
夜になったらてっぺんから光が回っても不思議じゃないような…。

「ナミ!ちょっと来てくれ。なんかある!」

ウソップが声を張り上げれば、優秀な航海士が足早にこちらへと近づいてきた。

「……なにあれ?」

ズンズンと島へと向かう進路方向にある灯台のような建物に首を傾げていると、

「人だ!」

傍らにいるチョッパーが精一杯小さな手を伸ばしてそう叫ぶ。
まだ距離のある不思議な灯台のような建物。
人?
マジ?
どこに?と目を凝らしてみるが、人らしきものはまったくといって見えない。

「なんか、手、振ってるぞ」

「え?マジで?」

「本当よ。こっちに向かって手を振ってるみたい。なにかしら?」

え、えええええ?
マジで?
マジで人?




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