波瀾万丈

□薤露蒿里
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「いい?ログが溜まるまで5日もかかるらしいの。5日もこの島にいなくちゃいけないのよ?分かる?5日よ、5日」

無事に港へと着いたサニー号の上で、影の船長とも名高いナミがそう宣言する。
それを聞くのはお馴染みの面々だ。

「ぜーーーーったいに問題は起こさないで」

ギンっと甲板に集まった面々を睨んでのお願いっていうよりも、脅しに近い勢いのナミにチョッパーとウソップと共に勢い良く頷いた。
頷くしか道は残っていなかったし、なによりも『問題』なんて起こすつもりもないし、起きなければいいいし、起きないでくれと願っている。

「特にルフィ!あんたよ!分かってんの!」

「ニク!」

「頷くようにニクって言わないで!もう」

多分、ナミの中で一番問題を起こしそうな人物へのピンポイントでの脅しというか注意は、綺麗にスルーされた形となった。
いや、もう、だって。
ルフィの目、なんかぐるぐる渦巻いてるもん。
肉まっしぐらって感じに。
頭の中はもう肉しかないと思う。

「じゃ、これから船を降りて―――」

「ニクーーーーー!」

「はいはい、分かったわ。行ってらっしゃい。とりあえず自由行動とするけど、問題だけは起こさないでよ!」

わーっと両腕をあげて真っ先に船を駆け降りていくルフィ。
船長がそれでいいのか、と思いつつも、ウソップとチョッパーが慌てて後を追いかけているので、同じように船を降りるつもりだった。

能力者じゃない奴の側にいればいいだろ、と提案してくれたウソップ。
チキン同盟同士というのは少々不安ではあるが、言い出しっぺについて行こうと思った。

肉を目指している船長は飯屋に直行だろうし、こちらもお腹はすいている。
すいているってレベルを越えるくらいにぺっこぺこだ。
何食べようかなー、とありとあらゆるメニューを脳裏に描きながら、ぐーぐーと空腹を主張するお腹。

色々と心配はあるけれど、まずはテンション高めに行こう!
飯屋くらいなら大丈夫なはず!よっしゃーーー!飯!と気分をアゲアゲにして船を降りようとした瞬間だった。



「***はダメよ。残って」

「―――ぐえっ!」



駆け抜けていこうとする人間の襟首を引っ掴まれて引き寄せられれば、―――どうなるか分かるだろう。
動物が絞め殺されるかのような声ともつかぬものを発し、引っ張られたほうへもんどり打って倒れたのだった。






*
*
*






「あ、これ可愛い!」

「あら、ほんとうね」

「どうしよう、色違いで揃えちゃおっかな」

「こっちのも可愛らしいわよ」

肉しか見えてなかったルフィのように、わーい!ごはーん!とテンション高めに船を降りようとしていたのを問答無用で引き止めたのは悪魔……ナミだった。
襟首をつかまれ、引っ張られ、窒息しかけながら甲板にもんどりうって。

一体全体何が起きたのかわからない。
むしろ腰がいたいっていうか尻もいたい。
なにこれ?
どういうこと?

と見上げた先で、『***は私達と一緒』というナミからの宣言は死刑宣告にも聞こえた。

えええ、なんで!
どうして!
ごはん!ごはん食べたい!
おなかすいた!
と訴えたけれどそれは覆ることはなかった。

「赤もいいけど、んー、白にも悩むわ」

「こっちがいいんじゃないかしら?」

「そうよね。色合い的にはこっちの方がいいわよね」

「私はこれを買おうかしら」

「あ!素敵!きっとロビンに似合うわよ!」

というこれぞガールズトークを店の片隅にあるソファに座って聞く。
気分は真っ白に燃え尽きたボクサーのようだ。
膝に肘をついて項垂れながら盛大な溜息をついた。
左隣も右隣にも、足元にもあるのは紙袋の山、山、山。

あっちに行ってはこれ可愛い、
こっちに行ってはこれ素敵、
そうやってナミとロビンが買い占めた戦利品が紙袋の山となって身の回りにある。

なーにが『***は私達と一緒』だ!
単なる荷物持ちじゃん!

「***、次いくわよ!」

どさっという音と共に紙袋が増える。
先ほどまでどれにしよっかなーとキャッキャしていたのに、いつの間にか会計まで済ませてしまったらしい。

「もー、やだー、重いー」

「なにいってんの。男の子でしょ。洋服と靴と鞄だけでぐずぐず言わないの」

「量を考えろ!量を!」

服だけならいい。
いや、良くないけど、でも服だけならそんなに嵩張りを見せないからだ。
けれど靴は違う。
きちんとした箱に入って渡されるブーツやミュールの嵩張ること!!

どうせ履くんだから箱いらないじゃん!
と訴えれば後頭部を叩かれた。
潮風にやられないように仕舞って時に便利らしい。
あと簡易靴箱になるとか何とか。

しらねぇっての!
人間には足は2本しかないってのに、あっちもこっちも。
何足買う気なんだ!
365日履き替えるつもりか!

と心の中で不平不満を呟きながら(あくまでも心の中だけである)、増えた紙袋を持ち上げる。
ずしっと感じるのは勘違いではない。

重い。
元を正せばただの布とはいえ、重いものは重い。






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